存在しない存在をなくせ

また揉めているのか。リオ・オリンピックの女子マラソンの代表選考は。
陸連はどうしても福士選手を出したくないってことでいんでしょうか。

バルセロナの時も酷かったものな。あの時は仕事で少々係わっていた
ので、内部事情を少しは知っているけど。

そもそも3人しか代表を送れないのに選考基準になる大会が4つある
のも問題じゃないのか?まずは陸連まるごと改革しなきゃじゃないかね?

『無戸籍の日本人』(井戸まさえ 集英社)読了。

乳幼児健診が受けられない。就学年齢になっても小学校に通えない。
成人しても選挙権がない。運転免許証が取得できない。勿論、パス
ポートも。結婚したい人と出会っても婚姻届けが受理されない。

銀行口座が作れない。家を借りることが出来ない。仕事をしようにも
低賃金の条件の悪い職場でしか働けない。携帯電話の契約が出来
ない。

そうして、自分が自分であることを証明できない。

戸籍がない。すべては無戸籍であることが原因だ。ここ数年、メディアで
取り上げられるまで知らなかった。私たちが当たり前だと思っていること
が、簡単に出来ることが出来ない人たちがいる。

本書の著者は民法772条の300日規定によって、自身の子供が1年間
無戸籍であったことから無戸籍児・無戸籍者の支援を始めた。

本書では著者が戸籍取得の為の支援をした何人かのケースが紹介されて
いる他、民主党議員時代に取り組んだ民法改正がいかにして潰されたか
の顛末が詳細に綴られている。

無戸籍者が生まれる理由は様々だ。離婚が成立しないうちに別の男性の
子供を身ごもる。これは前夫のDVが原因の場合が多そうだ。出産費用
が支払えず、産院が出生証明書を借金のカタにして渡してもらえない。
そして、単なる無責任な親もいる。

背景は多種多様だが、それを生まれた子供に背負わせていいのか。
実際、著者が離婚後に生まれた子供の出生届を提出した時、市役所
の職員は300日ルールを説明した後にこう言った。

「それは離婚のペナルティです」

シングルマザーも、離婚も、再婚も、珍しい時代ではなくなった。それでも
こんなお役所はこんな感覚なんだと呆然とする。幸いにして著者は政治家
へのパイプもあったことから本人訴訟を起こして子供の戸籍を得た。

だが、著者のようなパイプや法律の知識のない一般の人はどうだろう。
何をどうしていいのか、まったく分からないのではないだろうか。役所で
「戸籍も住民票も作れない」と言われたらそこで引き下がってしまうので
はないだろうか。目には見えない高い壁があるんだ。

だから、著者たちが築いた支援のネットワークが重要な役割を担うのだろう。
しかし、本来であればそれは民間の人たちが支援をするのではなく、国が
自ら解決に動くべきことだろう。

著者たちの活動やメディアに取り上げられることで、行政にも動きは出て
来ている。それでも、自治体によっては差があるようだ。

日本国憲法は保障する。すべての国民が健康で文化的な生活を。だが、
確実にそこから零れ落ちている人々がいる。

13年間で著者が支援に係わった無戸籍者は1000人以上にのぼるという。
行政も正確な無戸籍者の人数は把握出来ておらず、その数は1万人以上
とも言われている。

この世に生まれ、生きて生活をしている。それでも存在しない存在となって
しまう。そういう人たちすべてが戸籍が取得できる日は来るんだろうか。
今日もどこかで、戸籍のない子供が誕生しているかもしれないと思うと
切なくなる。