理想と現実の乖離

一部では止んでないようだけれど、シリアで停戦が発効した。
このまま戦乱が終わればいいのだけれど。

犠牲になるのはいつも一般の市民なんだからさ。シリアの人々が
安心して生活出来るが、1日も早く訪れますように。

ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』(磯前順一 集英社新書
読了。

巻末に掲載された出典一覧を見るとめまいを起こしそうになる。文字の
小ささも勿論だが、その量の膨大さにだ。

昭和のグループサウンズ時代に絶大な人気を誇り、僅か4年の活動期間
を経て解散に至ったザ・タイガース。彼らのアマチュア時代から解散から
40年以上が過ぎての再結成までを、集められる限りの資料を元に書かれ
たのが本書だ。

ザ・タイガース解散後、一切の芸能活動から身を引き、高校教師として
生きる道を選んだ瞳みのる。彼が2013年の再結成を機に記した自叙伝
で結成から解散に至る道のりは読んでいたので大まかな事情は分かって
いた。

だが、本書で多く引用されているメンバーたちのその時々の発言で追って
いくと、ビートルズローリングストーンズのようなバンドを目指した彼らが
芸能プロダクションに所属し、渡辺プロという組織のなかで本来目指した
ものとは別物の「アイドル」に仕立て上げられていく過程での葛藤が理解
出来る。

特に失踪(日に渡辺プロによる工作と判明)・脱退となった加橋かつみ
芸術家気質はやりたい音楽を許されず、会社に押し付けられるアイドル
像としての活動には耐えられなかったのだろうな。ま、この人はこの人
で少々問題もあるんじゃないかと思ったが。

「もし」と考える。ザ・タイガースのデビューには内田裕也が深く関わって
いた。状況当初もジャズ喫茶などで「内田裕也ザ・タイガース」として
活動していたこともある。

だから、「もし」渡辺プロが内田裕也ザ・タイガースから切り離さなけれ
ば、彼らは自分たちが理想とした音楽活動を続けられたのかもしれない。
でも、その場合、今のように絶大な人気を誇ったグループサウンズとの
記憶は残らなかったのかもしれないけれど。

ザ・タイガースがいた時代。彼らを取り巻いた人々や社会状況の記述も
あって興味深い1冊だった。特に頻繁に出て来る飯倉片町のイタリアン
レストラン「キャンティ」とオーナーの川添夫妻。これは「キャンティ」関連
の書籍が出ているので読まなくちゃね。

私はザ・タイガースをリアルタイムでは知らないんだよな。「さよなら日劇
コンサート」とか同窓会コンサートでしか曲を聴いたことがない。もう少し
早く生まれていたらあの熱狂の時代を体験できたと思うと残念だ。

理想と現実の乖離は、同じ音楽を目指したはずの5人をバラバラにした
んだね。でも、それぞれが還暦を過ぎて再度同じステージに立てたのは
よかったんじゃないかな。