ベストセラーを駄作にする方法

作家の佐木隆三が亡くなった。直木賞を受賞し、映画化もされた
復讐するは我にあり』は何度も読み返した。

実際に起きた事件を元にした事件小説の先駆者だったよね。
ご冥福を祈る。合掌。

『鳥にには巣、蜘蛛には網、人には友情。』(デヴィッド・ハルバースタム
 不空社)読了。

ドミニク・ディマジオ。偉大な兄ジョー・ディマジオの陰に隠れがちだが、
兄に負けぬほどの大リーグの名選手。

ボビー・ドアー。大リーグで目覚ましい活躍をしながらも、多発性硬化症
を患った妻を看病する心優しき選手。

ジョニー・ぺスキー。移民の子として貧しい家庭に育ち、球団の雑用係り
から広角打者として名を馳せた選手。

そして、テッド・ウィリアムス。現役時代に第二次世界大戦朝鮮戦争
従軍しながらも、大リーグ最後の4割打者となった。

ボストン・レッドソックスに4人が揃っていた時代。それはレッドソックス
黄金期でもあった。それぞれが球界を引退し、老齢に達したある日。
死期の迫っているテッドを見舞おうと決まる。引退後も仲の良かった
4人が、最後に顔を合わせる機会だった。

しかし、妻の看病の為にドアーは参加できない。代わりにローカル局
のパーソナリティだったディック・フレーヴィンがドミニクとジョニーと
一緒に2000kmの車の旅を始める。

テッドを見舞うまでの間に4人それぞれの少年時代から大リーグでの
活躍、1946年のリーグ優勝とワールドシリーズ、引退後の生活と彼ら
を結び付けていた強い絆のエピソードが織り込まれている。

なのだが…糞なのである。汚い言葉で申し訳ないのだが、本当に糞
なのである。著者は私が敬愛してやまないハルバースタムだ。それ
なのにこの翻訳書はとことん腐っているのだ。

まず、タイトルだ。原題は『The Teammates』。それが何?この訳の
分からんタオトルは。編集部が勝手につけたようだけど、これじゃ
スポーツ・ノンフィクションだって分からないよね。

詩の一節を持って来たらしいのだが、原書のどこかでこの文節を
含む詩が引用されている訳でもない。扉の献辞でハルバースタム
が「私の最愛のチームメイト、ニール・シーハンにささげる。」とまで
書いているのだから、原書のタイトルをそのまま使わないと勿体
ないではないか。

編集部も能力不足なら、訳者も酷い。英語が読めるってだけで翻訳を
してはいけない見本のような文章だ。中学生が少々長い英文を訳して
みたら、文脈がおかしくなりましたみたいな感じだ。

「バルチモア・オリオールズって何だよ〜」と突っ込みながら読んでい
たら、途中から「ボルティモア・オリオールズ」に変わっているし…。
推敲とか、校正とかしてないのか。

しかもこの訳者、アメリカや大リーグに関する知識がまったくないので
はないか?

原書は2003年の全米のベストセラー作品だぞ。しかも人間ドラマには
定評のあるハルバースタムだ。

それを、それを…こんな駄作にするんじゃな〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ。

こんな最悪な翻訳でも4人を結ぶ友情は伝わって来るのだから、翻訳
が良ければ本当に感動作だったのだろうな。常盤新平に頼めなかった
のかしらね。ブツブツ…。

無理は承知だが、違う出版社・違う訳者での再版をお願いしたい作品
だわ。あぁ…いくらなんでもハルバースタムに失礼過ぎるわっ。