医療に繋げた後の受け皿がない

在日トルコ大使館前で乱闘か。これ、民族紛争の縮図なんだよな。

『「子供を殺してください」という親たち』(押川剛 新潮文庫)読了。

家庭内暴力に疲れ果て、年老いた親が中年になった子供を殺害
する。先日もそんなやりきれないニュースがあった。

しばらく前に本書の著者・押川氏をテレビで見た。精神障害者移送
サービスなる業務を行っている押川氏の仕事に密着したドキュメント
だった。

自覚症状もないままにアルコール依存症に陥り、家族に暴力を振るう
男性や、暴君のように母親に自分の欲求を満たす為の要求を繰り返す
少年。彼らを説得し、いかに医療に結び付けるかの過程が紹介され
ていた。

本書では押川氏が実際に手掛けた事例の紹介と、精神科医療周辺の
問題点と対策を検討する書である。

なんともショッキングなタイトルだが、実際の事例はそれ以上に衝撃的
だ。我慢に我慢を重ねた家族が、藁にも縋る思いで押川氏に助けを
求めるのだろう。

殺すか、殺されるか。そんなギリギリの状態にまで追い込まれた家族。
そして病識もなく、荒れて行き、精神に異常を来して行く子供。双方が
やりきれない。

だが、そうなった結果は「親が悪い。教育が悪い」と結論してしまうの
はいかがなものか。確かに本書で扱われている事例はある程度の
資産があり、教育程度も高い家庭がほとんどで、幼いころから多大な
期待を背負わされたり、欲しい物はなんでも手に入る環境に置かれた
子供が多い。

しかし、同じような環境で育った子供のすべてが初めての挫折から
引きこもりになり、家族を振り回す存在になる訳でもないだろう。
それの証拠に、本書でも老いた親に変わって保護者の立場を
引き受けた弟や妹の、「その後」の苦悩も紹介されている。

心の問題は難しいよね。人間、程度の違いはあるもののストレスに
晒されて生きている。「こうでありたい」と描いた理想とは違った生活
を送っていることだって少なくない。

それでもどこかで折り合いをつけて生きているんだと思う。折り合いを
つける。そのことが出来なかった人たちが心を病んでしまい、鬱屈し
た気持ちが一番身近にいる家族に向かってしまうのではないかな。

著者が言うように、取りあえずは医療に繋げることは重要だと思う。
それでも、退院後の受け皿がなければ元の木阿弥なんだよね。

自傷他害の恐れがある人の受け皿のないことが、悲惨な事件を
招いているのは日々のニュースを見ていても分かるもの。

日本では殺人事件の発生件数は減少傾向にあるという。だが、事件
件数のうち、家族間の殺人発生率は増加しているそうだ。

遠くない昔のように鉄格子のはまった医療施設に閉じ込めておけば
いいとは思わない。それでも「3か月で退院」という現行の制度では
救えない家族がいるんだよね。難しいわ。

だって、私だっていつ・何が原因で精神を病んでしまうかも分からない
のだもの。