真実なのか、妄想なのか

南京虐殺ユネスコ登録に対して「拠出金、凍結させるぞ」
なんて恫喝したものだから、シベリア抑留に関して今になって
ロシアから抗議されてやんの。

事実関係についての抗議ではない。「ユネスコの政治利用だ」
と言うことらしい。

盛大なブーメランが飛んで来ましたな。さぁ、ユネスコ総会に
出席する馳文科相はどうするんでしょうか。

『殺人鬼ゾディアック 犯罪史上最悪の猟奇事件、その隠された
真実』 (ゲーリー・L・スチュワート/スーザン・ムスタファ 亜紀書房
読了。

生後4週間でアパートの階段踊り場に捨てられた男の子は養父母に
引き取られ、たくさんの愛情を注がれて大人になった。

39歳になったある日、実母だと名乗る女性から連絡があった。幼い
頃から養子であることは知っていた。だから、「自分は何者なのか」
との思いを抱え続けていた彼は、実母に会う決心をする。

顔さえ覚えていない実母との再会。これが共著者のひとり、ゲーリー
長い旅の始まりだった。

実母は分かった。では、実父はどのような人なのだろう。ある日、テレビ
のドキュメンタリー番組にチャンネルを合わせたゲーリーは戦慄する。
未解決事件の犯人の似顔絵が写真の中の実父にそっくりではないか。

ゾディアック。1960年代末から1970年代前半まで、アメリカを震撼させ
忽然と姿を消した連続殺人犯。実父はゾディアックなのか。

本書はタイトルや帯の惹句からしてネタばれなのだが、実母との再会
のあとに実父を探す過程ではなくゾディアックを実父に置き換えて
犯行の様子を再現した章が挟まれている。

構成としてどうなんだろうと思うと同時に、実父がゾディアックである
という確たる証拠はないんだよな。

実父を知っていた人々や実母の話から得られる実父の人物像は、
確かに病理を感じさせるし、実際に犯罪歴もある。目撃者の証言
から描かれたゾディアックの似顔絵と実父の写真を見比べると、
似ているのも分かる。

ゾディアックが残した暗号のなかに実父の名前が隠されていた
という部分はこじつけのような気がしないでもないし、素人ながら
筆跡に類似点は少ないようにも感じられた。

ゲーリーは物書きではなくサラリーマン。その彼が仕事の合間に
12年の歳月をかけた実父探しの旅は、彼の中で父は連続殺人犯
だったとの結論になっている。

けれど、それは真実であるのかは不明だ。一切の証拠はない。
言ってしまえばゲーリーの妄想なのかもしれない。

私はゾディアック事件自体が不可解なんだよね。確認されている
4件の犯行のうち、3件ではカップルが犠牲者となっている。それも
女性の方が酷い襲撃のされ方をしている。

この3件だけであれば自分の元を去った実母への復讐だとの
ゲーリーの解釈も通じるのかもしれないが、4件目の犠牲者は
タクシー・ドライバーの男性なんだよな。犯行のパターンとして
おかしくはないか?

ゾディアック複数犯説もあるようだが、実際はどうなんだろうね。

実父とゾディアックを結びつける部分だけをフィクションと捉えて
読めばいいのかもしれない。

養子が実の両親を知る為に長い長い時間をかけて、実父が埋葬
されている墓地にまでたどり着いた。そんな物語としては興味深い。