じいさまたちの、最後の戦争

既に削除されているようだが、昨日の長崎原爆の日にディズニー
公式がTwitterで「なんでもない日おめでとう」と呟いて炎上してた。

アメリカのディズニー本社ではなく、日本のドメインでの呟きだ。
不思議の国のアリス」の中で誕生日以外の364日を祝う時の
言葉なのだけれど、日本の公式の呟きとしてはまずいよな。

まぁ、本家のディズニーはミッキーがゼロ戦を撃ち落とすなんて
アニメを作っていたしな。

『オールド・テロリスト』(村上龍 文藝春秋)読了。

舞台は東日本大震災から7年後の日本。妻子に逃げられ、仕事に
もあぶれたフリー・ライターのセキグチの元に、以前仕事をしていた
出版社の編集長から連絡が入る。

某国営放送でテロを起こすとの電話があった。電話の主は高齢の
男性。そして、彼はセキグチにルポを書くよう指名して来たと言う。

当日、取材との口実を設けて国政放送のロビーに潜り込んだ
セキグチの目の前で、実際にテロが起こる。しかし、実行犯は
どこにでもいそうな青年だった。

編集部に電話をかけて来た高齢男性の目的はなんなのか?
セキグチは徐々に事件に振り回され、背後にいるであろう
じいさまたちの思惑に絡めとられて行く。

いや〜、「村上龍」って感じの作品でした。『希望の国エクソダス
も好きな作品なんだが、あれは中学生たちが自分たちだけの「国」
を作る物語。

本書はその対極に位置するのかな。セキグチの一人称で物語は
進むのだが、そのセキグチを振り回すのが社会的にも成功し、、
経済的にも安定したじいさまたちだ。

腐り切った日本を、もう一度焼け野原に戻す!じいさまたちの憤怒が
テロに結び付く。どんな動機でもテロはいけないと思う。でも、じいさま
たちの憤怒には共感できてしまうのだな。

特にじいさまのひとりが語るマスコミについてなんて、読みながら
頷いてしまった。

年寄りの冷や水とはよく言ったものだ。年寄りは、寒中水泳などすべき
じゃない。別に元気じゃなくてもいいし、がんばることもない。年寄りは、
静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ」

なんか、分かるんだよね。こういう気持ち。あ、でも私はテロはしません
よ。本書の中のじいさまたちのように、満州からこっそり持ち帰った
ドイツ製の兵器なんて持ってませんから。

500ページ超の大作だが、じいさまたちの動きが気になってさくっと
読めた。

難点なのはセキグチの心理描写と、セキグチをサポートする美女・
カツラギのキャラクターが途中で変わっていることかな。

ラストは続編が出るか?と思えるような終わり方だ。でもね、こんな
じいさまたちが実際にいたとしても不思議じゃないよ、今の日本。