彼らの戦争は一生続くのか

戦後の教科書かっ!というくらいに黒塗り部分が多かった「大正天皇
実録」。その黒塗りだった部分のほとんどが新たに公開された。

これ、一般販売されないのかな。大正天皇について書かれた作品が
少ないので読んでみたいのだが。

宮内庁さん、お願いします。

『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房
読了。

国の為に戦場へ派兵され、過酷な戦場を生き抜いて帰国した兵士たち。
彼らは「ヒーロー」として称えられる一方で、何かを失って帰還する。

身体的な損傷は外見からそれと分かる。しかし、五体満足で帰還した
兵士たちも周囲が理解しずらい損傷を抱えている。

心的外傷後ストレス障害。いわゆるPTSDである。原因は生きるか
死ぬかの戦場体験であったり、救えなかった戦友や部下の酷い
までの死であったり、自身の民間人への非情な振る舞いだったり。

本書の著者はイラク戦争に記者として従軍した経験を持つ。イラク戦争
終結後、故国へ帰還したアメリカ兵たちの間にPTSDが発症している
ことを知り、本書を記した。

イラクで戦死したひとりの兵士と、帰還した4人の元兵士とその家族を
中心に話は展開する。日本語訳のタイトルに反して、自殺者はひとり
しかいない。

だが、誰もがいつ自ら命を絶ってもおかしくない精神状態に置かれて
いる。派兵される前と帰還後では別人のようになってしまった夫に戸惑い、
理解しようと努力しながらも限界を感じ、妻もまた徐々に心を蝕まれて
行く。

感情の爆発を抑えられない夫婦が辿る道は、読んでいる側にも非常に
辛い。特に自殺した元兵士の妻が、夫に耐えられなくなり家を出るまで
の出来事を綴ったメモは途中で読むのを辞めようかと思ったほどだ。

心を蝕まれた元兵士たちを治療するプログラムはある。しかし、施設に
入所し、プログラムを受けても自死してしまう元兵士は後を絶たない。

「われわれの国旗がいまもたなびき、われわれの建国の精神がいまも
輝き、われわれの国、アメリカ合衆国が世界中に善を推進するための
力としていまもあるのは、彼らのおかげなのです」

ヴェトナム戦争後初の名誉賞授与式でのアメリカ・オバマ大統領の
スピーチの一節だ。

オバマ大統領ひとりを批判するは訳ではない。戦争をはじめたすべての
国の最高責任者に問いたい。自国の善の為であれば、何千人、何万人
の兵士の肉体のみならず精神が犠牲になってもいいのか…と。

戦場での戦争は既に終わっている。だが、元兵士たちの心の戦争は
今でも続いている。