借金を背負うか、死を選ぶか

「高校生の政治参加はけしからん」なんて言ったのは、学生運動
華やかなりし頃だったか。それなのに、今度は18歳以上に選挙権
を!ってことで衆議院を通過した。

若い世代に政治への興味を持たせないようにして来た国が一転、
政治に興味を持ちなさいと言うのか。ふ〜ん…。

中学生くらいから政治の勉強をしなきゃいけなくなるのかしらね。
政府が認定した教科書で…ボソ。

『沈みゆく大国アメリカ』(堤未果 集英社新書)読了。

医療技術は世界最先端。でも、医療費は日本では考えられない
ほどに高額のアメリカ。年間150万人の自己破産者のうち、高額
な医療費の負担が原因のトップだそうだ。

日本とアメリカでは医療制度が大幅に異なる。世界保健機構の
お墨付きをもらっている日本の国民皆保険制度が、アメリカに
はない。医療費をカバーするのは民間の医療保険だ。

しかし、保険料の支払いが出来ない低所得者層では無保険の
人も少なくない。だから、少々体の具合が悪くても病院へ行く
ことをしない。

そうするとどうなるか。生きるか死ぬかの瀬戸際になってから
ERに駆け込み、手遅れになることも多い。

これでまにも何度か医療制度改革に挑んだ大統領がいた。しかし、
その度に壁にぶち当たった。この医療改革を実現したのが、オバマ
大統領である。アメリカにも国民皆保険を!通称。オバマケアは、
様々な理由で医療保険に加入できなかった人々から大歓迎を
受けた。

だが、その実態は…というのが本書である。悪名高き「愛国者法」
をはじめ、アメリカ政府への批判を続ける著者の作品だけあって、
オバマ大統領が手を付けた医療改革の矛盾点を鋭くついている。

実際、無保険だった人が医療保険に加入できるようにはなった。
しかし、そこには思いがけぬ制限があった。保険会社は加入保険
の規定を見直し、充実した医療を受けようとすれば保険料は高額
になる。そもそも、オバマケアのネットワークに加入している医師が
極端に少ない。

本書で実例として紹介されているのだが、シングルマザーの女性が
強烈な腹部の痛みを訴え、遠くの街からスラム街の医師に電話で
相談する。医師は彼女のいる場所の近くでオバマケアの診療を
してくれる医師を探すのだが、一番近い場所でもかなり離れた地域
の女性医師しか見つからなかった。

その女性医師もオバマケアで殺到する患者で、急患を診る時間が
割けない。腹痛を訴えていた女性はどうなったか。近所の病院へ
駆け込み、保険証を握りしめて亡くなってしまった。

対岸の火事…と思ってはいけない。いずれ日本にもアメリカのような
「医療は人の命を救うものではなく、投資の対象」という現象が現れる
かもしれない。

農業vs工業で語られることの多いTPPだが、もし、日本がTPPに参加
するようになると、アメリカの後押しを受けて規制緩和が進む。日本が
世界に誇る国民皆保険さえ、崩壊するかもしれない。

収益と株価。それだけが世の中を計る物差しになる時、社会保障
福祉もどこかへ去っていく。そして、残るのは高額な医療費による
借金を背負うか、死を選ぶかの二者択一になるのだ。

げ…嫌な世の中だよな。でも、近い将来、日本もアメリカと同じように
なるかも。「社会保障に使います」と言って消費増税したのに、一体、
どれだけ社会保障が削られているか…だもんな。