目撃者として生きた40年

『アイウィットネス 時代を目撃したカメラマン』(平敷安常 講談社
読了。

『キャパになれなかったカメラマン ベトナム戦争語り部たち』で
ヴェトナム戦争を取材したメディアの人々の群像を描き、『ハート
ブレイク・ホテル』では日本人記者たちに「あなかたにとってあの
戦争(ヴェトナム)は何だったのか?」と問いかけ、自らもその答え
を模索した。

そんな著者の3作品目はヴェトナム戦争以降の回想録だ。アメリ
の3大ネットワークのひとつ、ABCのニュース・カメラマンとして世界
各地で目撃した出来事を時系列で綴っている。

レバノンの戦乱から東西冷戦の終結アメリカ大統領選挙随行
取材、そして最年長のカメラマンとして走り回った9.11アメリカ同時
多発テロ。

ヴェトナム戦争終結後から21世紀初頭までの大きな出来事の
ほとんどを網羅しているのだが、全2作品でもそうだったのだが
著者が他者に向ける視線のなんと温かく、優しいことか。

仕事を共にした記者、音声、プロデューサー、取材相手に対して
の敬意が文章の端々に感じられる。

40年のニュースカメラマン生活、欧米社会で働く日本人として
人種差別に晒されたこともあった。それでも恨み・つらみはなく、
「いい画」を撮ることで周囲の信頼を勝ち得たのだろうことが
伝わって来る。

そして、著者の思いはやはりヴェトナムへと帰って行くようだ。
それはヴェトナム戦争取材の大先輩・岡村昭彦や、ピュリツァー
賞受賞者である酒井淑夫等の名前が何度も登場することで
分かる。

ロバート・キャパにはなれなかったかもしれない。しかし、著者は
本書の題名通り「目撃者」として時代を伝えて来た。

2006年、ABCを依願退職ヴェトナム戦争を振出しに、40年に
渡り世界のニュースを撮り続けたカメラマンに敬意を。