一枚の写真の、裏側の物語

弟に本読み聞かせゐたる夜は旅する母を思ひてねむる

青年皇族として初めての歌会始に出席された秋篠宮佳子内親王
殿下のお歌である。

明るいクリーム色のお召し物同様、お歌も可愛らしいこと。

『戦後50年決定的瞬間の真実』(グイド・クノップ 文藝春秋
読了。

写真には力があると常々思っている。インパクトの大きさでは
動画にかなわないかもしれないが、たった1枚の写真は私たち
に衝撃を与え、考える時間を与えてくれる。

今年は戦後70年。でも、戦後50年目に発行された本書を読んでみた。

世界的に有名になった写真はいくつもある。例えば、ロバート・
キャパの「崩れ落ちる兵士」。例えば、沢田教一の「安全への
逃避」。例えば、ケビン・カーターの「ハゲワシと少女」。

本書では世界に何かしらの印象を残した17の写真を元に、撮影者や
被写体、目撃者等に話を聞き、その写真の裏側にある物語を解き明か
している。

子供の頃にグラフ雑誌で見て、忘れられなかった写真がある。
オリンピックの表彰台。ふたりの黒人選手が手袋をした拳を
高く突き上げている。

本書でも取り上げられているメキシコ五輪陸上短距離の表彰式で、
アメリカの人種差別に抗議するふたりの黒人選手の写真だ。

靴下だけの足は貧しさの象徴。首に巻いた紐は、祖先たちが
受けた白人からのリンチの象徴だった。

このふたりの黒人選手の「そこ後」を追った章は切ない。ふたりが
ふたりとも、オリンピック後は辛酸を舐めるような生活を送った。

映画の題材にもなった「硫黄島星条旗」もある。ピュリツァー賞
受賞作品でもあるのだが、実はあの星条旗の掲揚は2度目だったのは
映画でも描かれた通り。これはやっぱりピュリツァー賞を返上して
欲しいわ。

日本の降伏が伝えられたニューヨークの路上で、通りすがりの
女性にキスをする水兵を捉えた「勝者のキス」では、写真に
写されたふたりを探し出し、ニューヨークの同じ場所で
再会をセッティングしている。

ヴェトナム戦争の際にナパーム弾に焼かれ、裸で逃げて来る少女
を写した「ベトナムの娘」等、取り上げられてる17の写真それ
ぞれに1冊の本が書けるであろう「写真の裏側」にある物語が
満載だ。

それは興味本位な取り上げられ方ではなく、ひとりひとりの
人生の重さをきっちりと伝える取材がなされている。

ただ、不満もある。原書は2分冊で出版されているようなのだが、
本書ではそのなかからのセレクトで日本向けに編集されている。

編集部の選択なのか、訳者の選択なのか不明だがこれは原書通り
に2分冊で出して欲しかったな。17の写真はあまりにも有名だから
選ばれたのかもしれないが、それ以外も読んでみたかった。