副題が見事に生きて来る

風邪でダウンしていたら、フランスでとんでもないことが
起きて終わっていた。

講書始の儀のニュース映像も見損なった。

江川卓は「空白の1日」だったが、私には「空白の2日」が
出来ちゃったよ。

『冬の喝采 運命の箱根駅伝 下』(黒木亮 幻冬舎文庫)読了。

名門・早稲田が復活する。早稲田競走部再生の為に、猛毒と
指導力を併せ持った中村清監督の下、エース・瀬古利彦
中心に早稲田競走部は再び「名門」の名に恥じない成績を
残す。

そして迎えた第55回箱根駅伝。故障と体調不良を抱え、時には
陸上競技との決別までを考えた著者は「花の2区」をトップで
駆け抜けた瀬古から襷を受け取る。

そして迎えた大学最終学年。就職したら陸上競技からは離れる。
そう決断していた著者は、どうしても記録を残したいと思って
いた北海道の大会への出場を果たし、最後の箱根駅伝のメンバー
にも選ばれる。

任されたのは8区。雨のレース。体調は上々だった。

「お前も頑張れ。大東が一分ちょっと前にいるけど、お前なら
抜ける。今のお前の力なら、どこの大学の奴にも負けない。俺は
お前に期待しているんだよ」

伴走車の中村監督から、入部以来初めて聞く温かい言葉。これまで
罵詈雑言ならいくらでも聞かされたのに。

これで早稲田が総合優勝…ならまさに小説的な終わり方なのだが、
実際にはそうではなったのが現実。著者のラストランは、自身が
納得の行く走りではなった。

しかし、最終章で「運命の箱根駅伝」の副題に結び付く。上巻の
大学入学直前に実は養子であったことが明かされているのだが、
就職後、海外勤務が決まった際に実の両親を捜し当て、実母から
送られて来た写真の中に「運命」を見る。

毎年、箱根駅伝の中継を見ていると選手紹介のアナウンスのなか
で「競技生活はこの箱根が最後」と言う言葉が度々登場する。

社会人になっても競技生活を続けるのは一握りなのだろう。
著者・黒木亮、本名・金山雅之もそんな選手のひとりだった。
しかし、他の選手と違っていたのは金融関係の仕事に就きながら
小説を発表したこと。そして、中学生の時からの練習日誌を
大切に保存しており、自身の競技人生を振り返って作品として
仕上げたことだろう。

解説の生島淳氏も書いているが、本書はまずタイトルに惹かれた。
『冬の喝采』。往路復路共に、沿道には延々と人々の応援が続く。
どこの大学だろうと関係なく、走る選手に人々は声援を送る。

タイトルの素晴らしさ、ラストの副題への収れん。綿密な練習内容と
レース記録。故障を抱えた競技者の葛藤。見事に描き切った良作だ。