普通の人の、普通じゃなかった10年

去る12月10日、問題山積の特定秘密保護法が施行された。
当日のニュースでは結構大きく取り上げられていた。

あ…今回の選挙ってこの特定秘密保護法の施行をうやむや
にしたかったから解散・総選挙なの?だって、どうして
解散のなのかさっぱり分からないんですもの〜。

『政治家やめます ある国会議員の十年』(小林照幸
角川文庫)読了。

父は土建屋から国会議員になり、後に自民党田中派の有力
幹部となった久野忠治。政治家である父の姿を見ながら、
「とても自分には政治家は務まらない」と、息子は思って
いた。

いくつかの転職をし、旧日本道路公団で道路の建設に係わる
サラリーマン生活を送っていた息子に、ある年の正月、父は
頼みごとをした。「名古屋まで車の運転を頼めないか」。

その父の言葉で、サラリーマン生活に終止符が打たれるとは
本人も思っていなかった。父の地盤を継ぎ、二世議員として
3期10年に渡り国会議員を務めた久野統一郎の10年を綿密
に描き出したのが本書だ。

「普通の人の、普通の人による、普通の人の政治」を目指した。
議員宿舎から国会に通うのは地下鉄、ネクタイは地下鉄駅構内
のワゴンセールで買った500円の品。議員バッジさえ付けて
いなければ、どこにでもいるサラリーマンに見えるだろうな。

そんな統一郎が政界デビューを果たしたのは、リクルート事件
東京佐川急便事件が立て続けに起きて政治不信真っ只中の
時代だった。

それでもやっぱりお金が飛び交う政治の世界。金丸信や小沢
一郎から配られる盆暮の「氷代」「餅代」の話が生々しい。

国会議員だからと言って、国政だけに係わっていればいいとは
いかない。地方選挙で誰の応援につくか。地元での挨拶回り、
支援者との付き合い。しがらみだらけで、「国会議員って
いつ、国政の仕事をしているんだろう」と思うくらいだ。

常に政治家には向いていないと感じながらも、阪神・淡路大震災
の際には現地対策本部長として多忙な日々を過ごし、中部国際
空港の建設、愛知万博の開催にも奔走した。

だが、それも10年が限界だった。所属する自民党が与党でいたい
ばっかりに、それまで大いに批判して来た公明党と手を結ぶに
あたって、「辞めたい」と思う方に統一郎の心の針は大きく
振れた。

「向いていないので辞めます」。老齢でも、落選でもなく、
10年を一区切りと、普通の人なら定年を迎えている歳だから
と、政界からの引退を表明する。

普通の感覚を持ち続けようとしながらも、政界の常識に晒され
ていく苦悩と迷いが赤裸々に綴られている。だた、自身の利益
供与等についての描写が少々足りないのかな。

しかし、政治家っていうのは本当に普通の感覚じゃいられない
ものなんだな。統一郎じゃないが、「政教分離が出来ていない。
憲法違反じゃないか。池田大作を国会招致しろ」なんて言って
いた自民党が、今じゃ公明党と大の仲良しだもんな。

そして、何故、二世議員が多いのかもよく理解出来る。維持して
来た地盤の後継指名を誰にするか。そりゃ、自分の子供にした
方が支持者にもすんなりと受け止められるんだろうな。

北海のヒグマ・中川一郎亡き後の、息子・昭一と秘書だった鈴木
宗男の骨肉の争いなんてものあったもの。

本書の終わりの方で、偶然電車に乗り合わせた男性から「久野
先生」と呼びかけられて、自分はもう政治家じゃないから先生
とは呼ばないでくれという統一郎。国会議員であった10年間は、
父親への孝行だったのかもしれない。