「文士」という言葉自体が死語か

昨夜は母・妹一家と少々遠出してシーフードレストランで夕食
だった。ただし、義弟とうちの白くまは先約があったので欠席。

女ばかりの夕食会は賑やかだった。そして、ふと気が付いた。
年明け、一番上の姪は成人式。一番下の姪は高校受験では
ないか。

おばさんの財布は益々寒風が吹きすさぶ予定だ。

『文士の時代』(林忠彦 中公文庫)読了。

鶴のような痩身にぎょろりとした大きな目、眼光の鋭さに
たじろぐ。

初っ端から川端康成なのである。威厳があるというか、少々
近寄りがたいというか。迂闊に近寄れない雰囲気が伝わって
来る写真だ。

昭和を代表する写真家、林t忠彦による文士たちの肖像を
収めたのが本書だ。「文士」なんて言葉も既に死語なんだ
ろうけれど、林氏の作品に置いては「作家」と言うより
「文士」という言葉がしっくりする。

銀座のバー「ルパン」を仕事場代わりにしていた林氏が、
そこで織田作之助を写したのが始まりだった。そして、
織田作之助ばかり撮っていないで自分も撮れと言われて
太宰治を同じ「ルパン」で撮った太宰治の写真は林氏を
知らない人でも見覚えがあるのではないだろうか。

写真と言えば口をへの字に結んで撮られるものだと思って
いるような谷潤こと谷崎潤一郎だが、松子夫人が傍らに
いる時にとっさにカメラを向けた時の笑顔がなんとも
可愛らしい。

若き日の瀬戸内寂聴の可憐さ、芯の強い左翼活動家
だったと思えない宮本百合子の「近所のおばさん」の
ような雰囲気。

どの人物もその人の特徴や雰囲気をよく掴んだ写真だ。
眺めているだけでも十分楽しめるのだが、それぞれに
添えられた人物にまつわる林氏の文章も楽しい。

「俺の文章きれいだから、若い女の子のファンがすごく
多いんだよ。俺の顔がクローズアップで、作者の顔は
こういう顔だっていったら、イメージが壊れるだろう。
だから俺は顔をクローズアップで撮られるのはきらい
なんだよ」

うぅ…山本周五郎先生、可愛すぎます。

以前に朝日文庫で出た版も持っているのだが、今回は
増補版ということで購入。また何度も読み返しそうな
本が書棚に増えた。