東洋のヴェネツィア

御岳山の噴火は捜索活動が進むにつれ、当初よりも被害が拡大
した。戦後最悪の火山噴火だそうだ。

苦しくて、熱くて、痛くて。そして怖かったろうな。亡くなれた
方々のご冥福をお祈り致します。

琉球王国』(高良倉吉 岩波新書)読了。

明治政府による琉球処分。そして、太平洋戦争での壮絶な
戦場。ひめゆり部隊を思い出すまでもなく、戦争に巻き
込まれて戦場になり、多大な被害を受けた沖縄。

加えて、戦後のアメリカ軍による統治。日本であって、
日本ではなかった沖縄。

だが、薩摩藩による侵攻以前、沖縄は独自の文化と習慣を
持った王国であった。

暗い歴史ばかりではない。実は500年の歴史を誇る琉球王国
があったではないか。歴史学者の著者が、隆盛を誇った時代
琉球王国の足跡を辿ったのが本書だ。

「父や母から聞く沖縄の歴史は、いつも苛められてきた歴史
ばかり。どうして、沖縄の歴史はこうも暗いのですか?もっと
おおらかに生きた歴史があるはずです。それを知りたい」

著者が地元・沖縄の短期大学で講義をしている時の、学生の
アンケートには、こう書かれていた。

この問いかけをなした学生と同じように、私も時折考えて
いた。薩摩による侵攻以前、沖縄はどんな歴史を辿って来た
のだろう…と。

本書は入門書として、また琉球王国の概要を掴むのには
もってこいの1冊だった。「素晴らしい」の一言に尽きる。

中心になっているのは豪族が群雄割拠し、薩摩による侵攻まで
の古琉球の時代。特に面白かったのは貿易の話。

まるで中世に栄華を誇った地中海の女王ヴェネツィア共和国
のようだ。中国・朝鮮のそれぞれの王朝との貿易は勿論、
遠くはマラッカ王国までに船を出し、交易を行っていたって
凄いわぁ。

「海のシルクロード」の一大拠点として成り立っていたのだ
もの。それも王国国営貿易なのだもの。

そして、もうひとつ特筆したいのは現存している琉球王国
辞令書から王国の職制を読み解いていること。

これぞ歴史学者としての仕事でしょう。僅かの手がかりから
同じ部分、異なる部分を抽出して王国の変化を解説している。

1993年発行だが、内容がまったく色褪せてないのがいい。
本書の内容のような作品こそ「ザ・岩波新書」だろう。

沖縄独立論でもなく、反沖縄論でもない。理性的に自身の
故郷である沖縄の歴史を掘り起こした良書である。