積み重なった負が噴出する

『なぜ2人のトップは自死を選んだのか JR北海道、腐敗の
系譜』(吉野次郎 日経BP社)読了。

2011年5月27日。石勝線で特急列車が脱線炎上。不幸中の幸いか、
死者は出なかったものの大惨事になってもおかしくない事故だった。

その後も不祥事が続く中、当時のJR北海道社長が行方不明となり、
後に遺体となって発見された。

しかし、JR北海道の歯車は既に狂いまくっていた。2013年に入って
も列車からの出火、貨物列車の脱線、運転士の覚せい剤使用等々、
不祥事が収まる気配が一向になかった。

そうして、社長経験者でもある相談役が、またもや自らの命を
断つことを選択した。

何故、次から次へと問題が起きるのか。本書は関係者の証言を
丹念に集め、国鉄の前身からJR北海道が辿って来た歴史を追い
ながら問題点を提示している。

自死したふたりの社長経験者だけが悪いのではない。それは
北海道の鉄道の歴史の分だけ積み重なった負の遺産が飽和
状態を迎えたからなのだろう。

例えば旅客路線としてではなく、貨物路線として発達して来た
歴史。例えば国鉄時代からの赤字路線。例えば民営化後の労使
の馴れ合い。例えば労働組合同士の対立。

鉄道事業だけは赤字を減らせない。そこで手を出した不動産事業
が期待以上の収益を上げる。そうすると鉄道事業の現場への関心
が薄まって行く。

自然、現場が要求する予算が通らない。利用客の安全の為に欠かせ
ないはずの保守・点検が疎かになる。そうなると、現場の士気も
あがらない。

石勝線特急列車事故の被害者である医師が語っているように、
分割民営化の際に赤字路線を多く抱える北海道だけを独立し
た組織にしたことが、そもそもの間違いだったのかもしれない。

ひとりJR北海道という組織だけの責任に留まらない。監督官庁
である国土交通省の、重大事故が起きるまでの監査の体制にも
問題提起をしている。

ふたりの死の真相には触れていないので、タイトルには偽り
ありなのだが、非常に丁寧に取材され専門用語も少なく分かり
やすい内容だ。

出来ることなら、副題をメインタイトルにした方がよさそうだ。
きっと著者はJR北海道に再生を願っているのだろうな。そこはか
となく愛情を感じる作品だった。