世界には知らないことが溢れている

ナショナルジオグラフィック ノンフィクション傑作選 冬のライオン
(ADVENTURE MAGAZINE:選 日経ナショナルジオグラフィック社)
読了。

白状する。衝動買いをした作品である。あ、「ナショナルジオグラフィック
は好きな雑誌だし、迫力あるビジュアルと綿密なレポートは毎号、楽しみ
にしている。

その「ナショナルジオグラフィック」が厳選したノンフィクションというだけ
で十分に魅力的ではある。だが、本書の購入動機は他にある。

表紙のカバー写真だ。アフマド・シャー・マスードアフガニスタン
伝説の司令官の横顔は、内容以前に私を惹きつけた。

だって、大好きなのだもの。マスードが。そして、購入してから秀逸な
ノンフィクション短編集であることに気付いたうつけ者である。

さて、内容。「極限の地からの報告」「野生動物をめぐる冒険」の2部
構成になっており、それぞれに5編のノンフィクションが収録されて
いる。

私の購入動機となったマスードを描いた「冬のライオン」が冒頭。
マスード亡き後の反タリバンの雄・ドムタス将軍とアメリカ軍特殊
部隊グリーンベレーの信頼関係。今もアフリカで猛威をふるって
いるエボラ出血熱と対決する国際医師団。遭難のメカニズムと
人間の心理。ホロコーストから逃れウクライナの洞窟で約1年
間を生き延びたユダヤ人家族。

伝説の人食いライオンの子孫かもしれないライオンの追跡。インド・
アッサム州では森林を追われたゾウが人家を襲撃する。日本の
調査捕鯨船を追い回すシー・シェパードと行動を共にしたレポ。
内戦の続くウガンダコンゴのマウンテンゴリラ保護区に潜入。
南極のコウテイペンギンの繁殖地への訪問。

マスード好きとしては冒頭の「冬のライオン」だけでも満足なのだ
が、もっと知りたいと感じたのは洞窟でユダヤ人虐殺の嵐をやり
過ごしたユダヤ人家族の話だ。

当時、子供だった生き残りの家族を探し出し、洞窟に潜んだ頃の
話を聞くだけではない。「司祭の洞窟」と呼ばれ、現在もウクライナ
に残る洞窟に実際に足を踏み入れている。

この辺りが「さすが、ナショジオ」と感じさせられる。だって、当時の
話が聞ければそれだけでも文章は書けるのだもの。それに加えて
一家が生活した痕跡の残る洞窟にまで出かけ、当時使用されて
いたと思われる石臼などを発見している。

これ、当事者が洞窟での生活を綴った作品を出版しているよう
なのだが、日本じゃ入手出来ないのかな。英訳の自費出版
だから無理か。

インド・アッサム州の、人家を襲撃するゾウと、密猟により個体数
の減少が心配されるマウンテンゴリラの話は人間と野生動物の
共存について考えさせれられた。

あぁ、私はイタリアへ行きたいと思っていた。だが、本書を読んで
行きたい場所が増えた。アフガニスタンマスードのお墓参りを
して、ウクライナに洞窟を見に行って、コンゴでマウンテンゴリラ
に魅了されたいし、南極でコウテイペンギンの繁殖を観察したい。

宝くじで10億円くらい当たらないかなぁ。あ、そもそも宝くじを買って
ないから当たるはずがないか。

それにしてもカバー写真のマスード。いい顔をしている。ソ連軍を
相手にゲリラ戦を戦い抜き、次にはタリバンを相手に戦った歴戦
のツワモノなのに、こんなに笑顔が優しい。それが、マスード
惹きつけられる理由の一つかもしれない。

尚、私はシー・シェパードは「環境テロリスト」だと思っています。