Dear Algernon

アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス ハヤカワ文庫)読了。

チャーリー・ゴードンは32歳。でも、幼児ほどの知能しかない精神
遅滞者だ。そんなチャーリーに夢のような話が舞い込む。

手術によって人工的に知能を高めることが出来る。読み書きが
出来るようになりたいと思っていたチャーリーにとって、またと
ない機会だった。

手術を受けることを承諾したチャーリーは、既に同じ手術に
よって知能を高めた白ねずみのアルジャーノンを競争相手に、
連日様々な検査を受ける。

チャーリーの手術は成功する。そうして、彼は劇的な速さで
あらゆる知識を吸収し、彼を実験台とした教授たちをも遥かに
凌ぐ天才へと生まれ変わる。

高い知能と多くの知識を得ることと引き換えに、失ったものも
あった。それは以前のチャーリーが務めていたパン屋での
仕事であり、仕事場の仲間だった。

天才の孤独。そして、思い出す過去。それがチャーリーの「経過
報告書」という形をとって物語が進んで行く。

ある日、白ねずみのアルジャーノンの身に起こったことから、
チャーリーは同じことが自分の身にも起こるだろうと予感
する。

徐々に出来ないことが増えて行き、覚えたことを忘れて行く。
「読み書きが出来るようになりたい」と願ったチャーリーが、
今度は「読み書きを忘れないようにして下さい」と願う。

もう何度、この作品を読んだだろう。その度に結末が辛くて、
少ししかページが進まない日が続いた。今回も最後の50ページ
くらいを読むのに2日もかかった。

高い知能を得ることが、幸せなのだろうか。相手を思いやる
心を持っていても知的な障害があったら、それは不幸なこと
なのだろうか。

何かを得る為に、何かを失う。それは知能の高低に係わらず
にそうなのだと思う。

だが、こうも思う。人間が、科学が、踏み込んではならない
領域があるのではないか…と。

チャーリーとアルジャーノン。本書は小説ではあるけれども、
彼らは神になった気でいる人間の犠牲者でもあるのでは
ないだろうか。