復興の狼煙を上げよ

積雪ならぬ積雹である。東京都三鷹市で1時間に渡り降り
続いた雹は、約1メートルも積もった。

車は勿論通れない。実質、通行止め。

いくらなんでもおかしいだろう。この天候。

世田谷区などでも床下浸水が心配されている。今夜から明日
にかけて要注意だそうだ。大きな被害が出ないことを祈る。

『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』
佐々涼子 早川書房)読了。

日本の出版界で使用される用紙の約4割を担うのが、日本製紙石巻
工場だ。その工場が、あの日、海に沈んだ。

2011年3月11日14時46分、東日本大震災が発生。この日まで、石巻
の見慣れた風景として長い煙突から白い煙をたなびかせていた工場
は、操業を停止した。

出勤していた全従業員は奇跡的に無事だったものの、工場は壊滅的
な打撃を受けた。

紙が造れない。日本製紙はもとより、日本の出版界にとっても最大の
危機だった。

本書は日本製紙石巻工場の再生までの道のりをまとめたものである。

あの大震災の記録は、どれも凄惨だ。日本製紙石巻工場も例外
ではない。

一片のほこりさえ厳禁の工場内には大津波により汚泥が流れ込み、
瓦礫が山をなし、約400台の自動車が積み重なっていた。そして、
後の瓦礫撤去作業の途中で、41体のご遺体が発見されている。

本社は石巻工場を見捨てるのではないかという不安。「半年で
復興させる」というプレッシャーの中での作業。多くの困難を
乗り越えながら、被災から5か月後、煙突は再び白い煙を上げ、
当初の目標通りに半年後には1台の機械が稼働を始めた。

復興の、狼煙が上がった。

パソコンや携帯電話に触らない日はあっても、紙に触らない日
はない。編集者として社会人になってからは、人より少し紙に
ついて詳しくもなった。

自分で見積もりも作った。紙見本を抱えて得意先での打ち合わせ
に向かったこともある。専門学校の授業では製紙工場への見学
へも行った。

だから、紙を造る工程も、紙にいろんな種類があるのも、出版社
によって微妙に使用する紙に特色があるのも知っている。

そうして、何よりも紙の本が好きだ。ペーパーレス化と言われて
久しい。電子書籍も普及している。それでも私は紙の本が読み
たい。

それは本の重みを感じたり、ページをめくる感触を指先で楽しめ
るから。そこにもうひとつ、思い入れが加わった。

クレジットさえされないけれど、毎日のように手にしている紙が
私の元に届くには紙をつないでいる多くの職人さんたちがいる
のだということ。

本書は2013年になってからの取材なので、ノンフィクションとして
はいささか薄さを感じる。だが、日本の出版界を縁の下で支える
製紙工場を、紙を造る工程を知るにはいいかもしれない。

余談だが、日本製紙はアイスホッケー・チームを擁している。
私が一番好きなスポーツなのだが、高校生の頃から一方的
に知っている選手の名前が本書に登場する。

現役引退後、本社の営業部員として頑張っているのだね。なんか
嬉しいかったよ。