今もどこかで何かが起こっている

問「戦車とはなんですか?」
答「ソ連の兵士たちが友好諸国への訪問に乗っていくものです」

今日の朝日新聞朝刊の「天声人語」に載っていたアネクドート
うぅ…。現実だしなぁ、笑えねぇよ。

『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳 ──いま、この世界の
片隅で』(林典子 岩波新書)読了。

「こういう仕事をしたい」と思って、その道にまい進する人もいれば、
些細なきっかけで思ってもみなかった仕事に就く人もいる。

本書の著者は後者のタイプか。アメリカに留学していた大学3年
の時に研修で訪れた西アフリカのガンビア

研修中にガンビアで開催されたアフリカ連合の人権問題に
ついての会議でのガンビア人ジャーナリストの発言がきっかけ
だった。

アフリカの小国の多くが独裁国家だ。ガンビアもその例に漏れない。
独裁国家には言論の自由も、報道の自由もない。そんな国でも
権力を監視するメディアは存在する。勿論、せいめい・身体の危機
と隣り合わせの仕事だ。

著者は研修期間を延長し、ガンビアの独立系の新聞社で記者たち
について仕事をする。たまたま持っていたカメラが、その後の彼女
の進む道を決めた。

このガンビアでの出来事をはじめ、内戦の犠牲となったリベリア
難民たち、カンボジアでは母子感染したHIV感染者の少年、男の
身勝手な理由で硫酸をかけられたパキスタンの女性たち、東日本
大震災と原発事故の被災者たち、誘拐結婚の横行するキルギス
を、写真と文章で報告している。

特に衝撃だったのは、硫酸に焼かれた女性たちだ。正直言って
掲載されている写真からは目を背けたかった。塞がった目、
引き攣れた皮膚。美しかったであろう女性たちは、何度移植
手術を繰り返しても元の姿には戻らない。

それでも、女性たちは苦しい手術に耐え、自分の姿を受け入れ
生きていくしかないんだよな。一部地域で行われている女子割礼
もそうだが、何の咎もないのにこんな酷い行為が世界の片隅で
は実際に起きているんだ。

章が進んでいくごとに、著者がフォト・ジャーナリストとして成長
していく過程が伝わって来る。そうして、私たちが知らない出来事
が今も世界のどこかで起こっているんだと考えさせられる。

本書で報告さているような出来事を知ったからといって、何が
出来る訳でもない。もしかしたら、知らなくてもいいことなのかも
知れない。知ってしまったら、辛くなるから。哀しくなるから。
怒りがこみあげて来るから。

でも、著者のように写真で、文章で伝えようとする人がいる限り、
世界のどこかで起きていることを、私は知りたいと思う。知って、
泪することだけでは何も変わらないのは分かっている。それでも、
これからもこのジャンルの作品には手を出し続けるだろう。

※写真を掲載しよかと思ったのだが、強烈な印象のものが
多いので興味のある方は著者のホームページで閲覧を。

http://norikohayashi.jp/