ただ山に登る。それだけでいい

「知事、市長が1票はおかしい。合わせて10票分あるべき」

大阪都構想の法定協の議決方法に対する、大阪市長の人の
発言。

えっと…民主主義って知ってるか?

『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』(NHK取材班 新潮
文庫)読了。

2002年、ヒマラヤ・ギャチュンカン北壁。世界屈指のクライマーで
ある山野井泰史・妙子夫妻は氷壁に挑んだ。その記録を綴った
のが沢木耕太郎『凍』だ。

登頂後(登頂を果たしたのは泰史氏のみ)、嵐と雪崩に巻き込まれ、
手足の指のほとんどを凍傷で失ったふたりの記録は、読んでいる
だけでも怖くて、寒くて、痛かった。

そのギャチュンカンから5年後、グリーンランド無人島ミルネ島の
ビッグウォールに挑んだふたりを追ったテレビのドキュメンタリー
番組の書籍版が本書だ。

スポンサーもつけず、泰史氏が講演や原稿料で稼いだ資金を
やりくりして費用をねん出する妙子さん。このご夫婦の姿が
とても素敵だ。

山に登れるだけでいい。同じ価値観を共有し、同じ山に挑み、
同じ苦しさ・楽しさを体験し、そしてまた山へと還って行く。

クライマーとしては手足の指を失うことは致命的だろう。それ
なのに、険しい登攀に挑むことを諦めない姿に強さを感じる。

また、今回の登攀に同行した、ベテラン・クライマー木本哲氏
も足の指を凍傷で失っている。足指を怪我しただけで、普通に
歩くのさえもバランスが取りにくいのに、それでクライミング
してしまうのだも。もう言葉に出来ないよね、こういう人たちの
凄さって。

三人が交わす凍傷をネタにしての冗談が、とっても明るいの
が救いだ。そしてなんといっても妙子さんの人柄が素敵。
奥多摩の自宅でも、クライミングの現場でも常にマイペース。

優れたドキュメンタリーであると同時に、素敵な夫婦の在り様を
教えてもらった。