颯爽として、ほんのりと切ない

復活ならなかったか。歌手・やしきたかじんが、正月3日に亡くなった。

綺麗な声で歌う人だった。何度かライブへも行った。もっとも歌っている
時間より、しゃべっている時間の方が多いライブだったが。

64歳じゃまだ若い。残念だ。ご冥福を祈る。合掌。

『銀座旅日記』(常盤新平 ちくま文庫)読了。

新年早々、オッペンハイマーの作品で失敗したので次は絶対に
はずしたくなかった。なので、本書である。常盤新平氏は私の
好きな作家であり、翻訳者である。

既に休刊となった雑誌「ダ・カーポ」に3年半に渡って連載された
日記風エッセイである。うん、当たりである。

70代前半の常盤氏の日常は非常に活動的だ。タイトルにある銀座
ばかりではなく、神保町や新宿、平井や浦安へまで足を運んでいる。

それがほとんど電車なのだ。理由:電車の中で本が読めるから。

そうなのだ。電車の中ってちょっとした書斎なんだよな。家にいる
より読書がはかどるんだもの。

行きつけの煙草屋で煙草を買って、行きつけの喫茶店(カフェではない)
で一服して、行きつけの寿司屋や飲み屋で杯を傾けて。

勿論、仕事の記述もあるし、常盤氏が主宰していた翻訳教室のこと
にも触れている。手元に積んだままの氏の翻訳によるノンフィクション
作品のことにも触れられていた。う〜む、早く読まなくちゃ。

そして、時々語られる老いることの切なさ。

それは浦安にあった寿司屋の記述でほろっとする。おばあさんの握る寿
司が好きで、常盤氏が通っていた場所なのだが、ある日、自転車で出前
に行ったおばあさん。帰り道が分からなくなったことで、娘たちが心配して
閉店に至った。

ご自身の老いることへの寂しさもところどころにあり、ちょっぴり哀しい。
しかし、老いても好奇心旺盛なところが垣間見れる温かいエッセイだ。

その常盤氏も亡くなった。もっともっと、素敵な翻訳本を読みたかった。