もうひとりの、ラッキー・ルチアーノ

ぬぬ。小泉元首相はなんで今頃になって脱原発を言い始めたんだ?

日本の首相経験者って辞めてからもいろんなことを言うよね。

王様と私』(ハーバート・ブレスリン/アン・ミジェット 集英社)読了。

情熱はあるけれど駆け出しの宣伝マンと、イタリアのパン職人の
家庭に生まれた長身の無名の歌手の出会いは36年間に渡る
歴史を紡ぐことになった。

駆け出しの宣伝マンは辣腕のマネージャーに。そして、無名の
歌い手は世界を代表する歌手になり富と名声を手にした。

この歌い手こそ、三大テノールのひとりであるルチアーノ・
パバロッティ。本書はパバロッティのマネージャーを務めた
著者による、舞台以外でのパバロッティの素顔を描いている。

一応、暴露本の類に入るのだろうか。もう面倒臭いお人なので
ある。パバロッティったら。勿論、いろんな我儘が許されたのは、
その歌声が人々を魅了し、ある程度の名声を得てからでは
あるが。

イタリア人の例にもれず(?)大勢の家族に囲まれて育った
からか。暇つぶしの相手がいないと寂しい。こんなことは
まだ可愛い方。

先に中国公演を終えた女性歌手から「中国には水も食べ物も
ない」と聞かされれば、既に準備が進んでいる中国ツアーに
は行かないと言い始める。そう、あのふくよか過ぎる体系その
もののように、食べることへのこだわりが凄い。

さて、そうしたか。イタリアから大量の食材を持ち込んだのは
勿論、料理人まで引き連れて。

ある時のニューヨーク公演。開演間近だというのに、控室に
パバロッティの姿がない。彼は空港に向かう秘書という名目の
愛人の後を追って、ニューヨークの目抜き通りを走っていた。
それも「オテロ」の衣装を着たままで。

キャンセルの常習犯だし、舞台で動きたくないからと勝手に
演出は変えるし、歌詞は覚えられないし、楽譜も読めない。
それでも憎めない人柄なんだよね、パバロッティは。

パバロッティのことだけではなく、オペラというビジネスのことや、
他の歌手についても書かれている。かなり辛辣な評価もある
ので、好き嫌いが分かれるかも。

本書が日本で発行されたのは2006年。パバロッティ最後の
舞台となったトリノ冬季オリンピックの年だ。同じ年、膵臓癌
が見つかり、1年後の9月には天に召された。

「パバロッティ」という名前が発音しにくかったアメリカ人が、
彼につけたあだ名は「ラッキー・ルチアーノ」。マフィアの大ボス
と同じ名で呼ばれた稀代の歌手。「神に祝福された声」とも
呼ばれたパバロッティは、今は神の為に歌っているのだろうか。