汚れたマイヨ・ジョーヌ

今、放送されているNHK連続テレビ小説あまちゃん」が好きで、
毎日曜日の1週間ダイジェスト版を観ている。

脇役陣が贅沢だよね。小泉今日子薬師丸ひろ子。往年のアイドル
ふたりがとってもいい。美保純、木野花片桐はいり等々、好きな役者
さんがいぱい。加えて古田新太が段々秋元康に見えてくる不思議。

さて、ドラマの中で東日本大震災が発生したのだが、この回について
原発事故をスルーしている。御用ドラマだっ」と騒いでいる人たちが
いるとか。

あぁ…反原発が間違った方向に行っているよ。放射脳の人なんだろうか。
原発事故を描いていたら、このドラマ、何年かかるんだよ。ブツブツ…。

『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』
タイラー・ハミルトン/ダニエル・コイル 小学館文庫)読了。

スポーツの歴史の裏側には、もれなくドーピングの歴史がついてくる。
それほどまでに切っても切れない問題なのだ。

オリンピックなどの大きな大会では必ずと言っていいほど、陽性反応が
出た選手のことが報道される。若くして亡くなった陸上短距離の女王、
フローレンス・ジョイナーにも生涯ドーピング疑惑がつきまとった。

三大ツールのなかでも日本で最も名の知られたツール・ド・フランス
出場し、アテネ・オリンピックの自転車競技で金メダルを獲得したのが
本書で自身と自転車競技界のドーピングの実態を赤裸々に語って
いるタイラー・ハミルトンだ。

自転車競技の元トップ・レーサーによる告白は実に生々しい。

再起不能と思われた癌からの生還、レース界への復活、不可能と言われ
ツール・ド・フランス7連覇を果たしたランス・アームストロングのチーム・
メイトでもあったハミルトンは、徐々に「あちら側」の人間になって行く。

誰もがドーピングでパフォーマンスを向上させている訳ではない。同じ
チームの中でも上位に食い込める可能性を秘めた選手に話が持ち掛け
られる。

選ばれたエリートたちによる違法行為は、まるでギャンブルや麻薬のよう
エスカレートする。ステロイドなどの違法薬物からヒト成長ホルモン、
そして血液ドーピングへ。

より速く、より強く。上を望めば望むほどに、深みに嵌って行く。その裏に
大きな落とし穴が待っているのも忘れて。

レース界復帰から何度もドーピング疑惑が持ち上がり、周辺では暗黙の
了解になっていたランス・アームストロングの実態についてが衝撃的だ。

本書が出版された時点ではアームストロングに対しての捜査が打ち切り
になっている(共著者のノンフィクション作家が、打ち切りになった原因に
ついての推測を記しているのが興味深い)。だが、逃げ切れないと悟った
のか。2013年1月、テレビ番組の中でドーピングについて認めた。

「かたが自転車レースじゃないか」

あるレースの最中にハミルトンと並走する選手が言う。そう、かたが自転車
レースなのだ。だが、最高のパフォーマンスを求める彼らにはそう考える
ことが出来なかった。そして、厳正に監視すべき国際自転車競技連合
自体がトップ・レーサーのドーピングを容認し、ツールの主催はあろうことか
検査機関に記録の書き換えを要請する、狂った世界だった。

マイヨ・ジョーヌツール・ド・フランスの総合優勝者に与えられる黄色い
ジャージ。ドーピングまみれの大会で与えられたマイヨ・ジョーヌは汚れ
ていた。

ランス・アームストロングの『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』で感動した
のはなんだったのだろう。尚、アームストロングのツール・ド・フランス
7連覇の記録は抹消されている。

厳しいレースの為に鍛えられた選手たちが競う自転車競技。それは
ドーピングなんて手段に訴えなくとも、驚異的な走りなのになぁ。