この国が目を背けてきたこと

アメリカから報道の自由がなくなりそうだ。政府に都合の悪い
情報をメディアに提供した情報源の訴追が止まらない。

大統領の陰謀も、ペンタゴン・ペーパーズも、過去の栄光に
なってしまうのか。

なんでもアメリカの真似をしようとする日本。悪しき「愛国者法」
なんて作らないでくれよ。

検閲ハンターイ。言論・出版の自由を死守せよ!

『私戦』(本田靖春 河出文庫)読了。

頭のねじがどっかへ行ってしまったような、ヘイト・スピーチを
繰り広げる連中がいる。こんな人たちを見ていると、日本は
お隣の半島を植民地としていた時代に戻ったのかと錯覚する。

ひとりの男が殺人を犯した。キャバレーで暴力団員を射殺し、
その足で山間のひっそりとした温泉地の旅館に向かい、経営者
家族と宿泊客を人質に立て篭もった。

彼の名前を冠して金嬉老事件と呼ばれる一連の出来事は、
1969年に起きた。暴力団員を射殺するきっかけとなったのは
手形の話がこじれたことだが、事件の根深いところにあったのは
差別問題だった。

金嬉老。日本生まれの朝鮮人(本書の記述に準ずる)。そう、日本が
植民地とし、日本人よりも劣った民族として見下して来た人々だ。

幼い頃から金は差別に晒されて育って来た。実父を4歳で亡くし、
継父は朝鮮人だと理由で半端仕事しか得られない。金自身も
少年院で苦労して自動車の整備士免許を取得するも、やはり
その民族が問題にされ、更生しようにも就職さえままならない。

そうして、通りがかりに遭遇したもめ事の際に刑事が口にした
朝鮮人を愚弄する言葉。

いかに日本人が、在日朝鮮人・韓国人を差別して来たか。その
差別によって、彼ら民族が辛酸を舐めて来たか。旅館に立て
篭もった金嬉老は、それを日本中に、日本人に訴えたかった。

しかし、マスコミが彼に貼ったレッテルは「凶悪なライフル魔」。
金が訴えたかったことは、警察とマスコミによって冷酷な殺人犯
による監禁事件とされてしまった。

本書は金嬉老の生い立ち、彼に関わった人たちの背景、事件の
経過を丁寧に追い、私たち日本人が目を背けて来た在日差別
を浮き彫りにしている。

激烈な筆ではない。しかし、著者の、差別に問題に対する憤りが
ビシビシと伝わって来る。

名前を日本名に変えるkとを強要され、日本語を話すことを要求
され、国籍が違うという理由だけで就職も結婚もままならない。
私たち日本人は、そういう仕打ちをして来た歴史から目を背け
ていやしないか。

先日、横浜市の中学校で歴史の副読本が回収されたとの
ニュースがあった。関東大震災の際に、朝鮮人が虐殺された
との記述が問題になったそうだ。

何が問題か。事実ではないか。この国は、いつまで歴史から
国民の目を逸らせようとするのか。私たち日本人こそ、蛮族
なのではないか。