命は消耗品ではない

北朝鮮の偉い人のお妾さんになっている」

こら、慎太郎。家族が帰国を願ってやまない拉致被害者に対し、
なんてことを言うんだ。

思うのは勝手だが、口に出すなよ。長い長い年月、帰って来る
ことを祈っている家族の気持ちを少しは斟酌しろよ。

『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(太田匡彦 朝日文庫
読了。

年間約20万匹。日本で殺処分される犬や猫の数である。野良犬や
野良猫がほとんどいなくなった現在の日本で、殺処分される犬猫は
勿論ペッとしての犬猫である。

本書は雑誌「アエラ」に掲載された犬の殺処分に関連する記事に、
追加取材・加筆をして文庫化されたものである。

犬や猫に限らず、ペットとして迎え入れた動物はその死まで共に
過ごすことが当たり前だと思っていた。私自身、実家にいた時に
マルチーズを飼っていた。

このマルチーズ、父の仕事関係の知り合いの家から妹がもらった
犬だった。手放した理由を聞いた時、呆れた。「子供が飽きたから」。
だったら飼うなよと思った。

実家に来て数年後、血液の病気が見つかり通院が欠かせなくなった。
最期は母と私が見守るなかで息を引き取った。

安易に犬を飼うことから何が起きるのか。保健所に引き取られた
犬が、どのように処分(嫌な言葉だ)されるのか。漠然と「犬を
飼いたい」と思っている人に考えて欲しい。

飼い主が迎えに来てくれるのを待ちながら、ガス室に送り込まれ
殺されることを想像して欲しい。

個人ばかりではない。ペットショップで売れ残った犬がどうなるか。
悪質なブリーダーが繰り返し保健所を訪れることも多い。

どうすれば殺処分される犬を減らすことが出来るのか。本書では
熊本市の取り組みを紹介している。獣医師の資格を持った職員
が犬を持ち込む飼い主に対応し、時には声を荒げても説得に
あたる。時には飼い主を殺処分に立ち合わせる。

自分の腕のなかで鎮静剤を注射された犬が、けいれんを繰り返し
死んでいくのを眺める。その時、安易に飼い、安易に捨てようとし
た飼い主は後悔し、命の重みを知るのだろうか。

殺処分ゼロのドイツの取り組みも興味深い。行政ではなく、寄付金
で賄われる動物保護施設と、引き取り手の見つからない動物の
終生飼育施設があるそうだ。

また、5年ごとに見直される動物愛護法が前回の見直しでいかに
骨抜きにされたかの章では、ペット流通団体の身勝手と命の
軽視に憤りを感じた。

人間の最古の友人・犬。だが、その命はバーゲンセールのように
扱われている。命は消耗品ではないのにね。

尚、殺処分される犬の写真なども掲載されているので、本当に
動物が好きでその命の最期まで面倒をみる気で飼っている人
には衝撃が大きいかも。