史上最も大胆な作戦

有効な対策もなく、はっきりした原因も究明できず、福島第一原発
汚染水垂れ流し中である。しかも、高濃度の放射性物質が検出され
ている。

原子力規制員会からもせっつかれているようだが、なかなか止まらない。
いつまで福島の海を汚し続けるのだろうか。

『アルゴ』(アントニオ・メンデス&マット・バグリオ ハヤカワ文庫)読了。

カーター大統領が、病気療養との名目でパーレビ元国王をアメリカに
受け入れたから、さぁ大変。イラン革命後のテヘランではホメイニ師
指導者と仰ぐ過激派学生が、元国王の引き渡しを要求してアメリ
大使館を占拠した。

カーター大統領の支持率ガタ落ちの原因にもなった、イラン・アメリ
大使館占拠事件だが、同じ敷地内のアメリカ領事館からは既に6人
アメリカ人が脱出していた。

反米感情を高めるイラン人に見つかったら、殺されるかもしれない。
身を隠さなければいけない6人に手を貸したのは、アメリカの隣国・
カナダ大使館だった。

そして、CIAに命令が下る。アメリカ人6人を救出する作戦を立て、
実行せよ。

映画「アルゴ」の原作である。なんといっても私の大好きなスパイの
世界である。映画の方は観ようを思っているうちに、劇場公開が終わっ
ていた。

さぁ、どうやって6人を脱出されるか。イランに職を求めに来た英語
教師?それとも穀物調査に訪れた栄養士?いやいや、ここは最も
大胆な作戦にしよう。そうだ。映画のロケハンに来たハリウッド関係
者に仕立ててしまおうじゃないかっ!

手に汗握るスパイ小説…という訳ではなく、カナダ大使の私邸に
匿われた6人をいかにハリウッドの人間に仕立て上げるかの
下準備が丁寧に記されている。

派手なアクションもないし、スパイ同士の対決もない。6人それぞれ
の偽の履歴を作り上げ、必要書類を偽造し、挙句の果てには
ハリウッドに事務所まで作り、制作予定の映画広告を打つ。

すごいなぁ。パスポートを始めとした文書偽造は映画や小説でも
よく出てくるが、その人物の背景まで作り上げるんだもの。

本書は脱出工作の準備に多くが割かれており、これが堪らなく
面白い。脱出劇そのものは最後の方におまけ程度だ。

CIAの実行力も凄いが、この脱出劇で大きな役割を担ったのは
カナダである。「カナダの策謀」と呼ばれているようだが、カナダ
政府の全面協力がなければ実行出来なかったろうな。

だって、CIAが「すいません、出来ればあなたの国のパスポート
を使わせて頂きたいんですが」とお願いしたら、「ええ、もう準備
してますけど?」なんだもの。

アメリカから田舎者扱いされるカナダだが、もっと感謝した方が
いいよ。そもそもカナダ大使が匿ってくれなかったら、どうなって
いたか分からないんだから。