生き抜いてくれて有難う

名優、否、この人の場合は怪優と言うべきだろう。三国連太郎が逝った。
享年90歳。大往生と言っていいのだろうな。

極悪人からコメディまでを演じ、舞台、テレビ、映画と活躍の場も広かった。
三国連太郎を描いた佐野眞一『怪優伝』は買ったままで積みっぱなし。
早く読んでおけばよかった。

「役者」と呼べる俳優が、またひとりいなくなってしまった。残念。ご冥福を
祈る。合掌。

津波からの生還 東日本大震災石巻地方100人の証言』(三陸河北
新報社「石巻かほく」編集局:編 旬報社)読了。

防風林をなぎ倒し、壁のように迫って来る巨大津波。道路には四方八方
から水が迫り、大型トラックさえも軽々と水流に飲まれる。

防波堤で視界が遮られ、迫って来る津波に気付かない人々に建物の
上から「津波だ、逃げろっ!」とあらん限りの声で呼びかける人。

僅かに水面から覗いた建物の屋上で身を寄せ合う人たち。水没しそう
な車の屋根に登り、茫然としている人。

何もかもを飲み込んで迫りくる巨大津波の映像は、今でも鮮やかに
思い出すことが出来る。

地震だけであったのなら、あれほどの犠牲者を出さなかったであろう
東日本大震災。本書は石巻地方(石巻市、女川町、東松山市)で津波
から生還した人々に取材したインタビュー集だ。

巨大津波に翻弄され、自らも漂流しながら同じように津波に飲まれた
人に救助の手を差し伸べた人のなんと多いことか。これが人間の
「生きてやる」という本能なのか。

100人それぞれの津波体験がある。そして、それは読む側の気を
圧する力がある。あぁ、生きていてくれて有難う。心からそう思う。

各章の巻頭には津波が襲来する以前と以後の航空写真が掲載
されており、あの日の爪痕がいかに深かったのかがよく分かる。

ここに、心情を吐露してくれた人たちの体験はとても辛いものだと
思う。それをあえて語ってくれた人たちに報いる為にも、あの大震災
と巨大津波は、今後起るであろう自然災害への対処への教訓と
しなければいけないのだろうな。