彼らもまた、被災者なんだ

昨夜、寝床へ行く前に天気予報を見ていたらニュース速報だ。
字幕は大英帝国初の女性首相、マーガレット・サッチャー
死を伝えていた。

「鉄の女」も老齢には勝てなかった。近年は認知症を患って
いたとか。男の世界である政治、それも国際舞台で11年も
活躍した女性に敬意と弔意を。ご冥福を祈る。合掌。

『兵士は起つ 自衛隊史上最大の作戦』(杉山隆男 新潮社)読了。

東日本大震災当日、どうにか帰りつた自宅で延々とテレビを観ていた。
地震と巨大津波の被害は、時を経るごとにとてつもないものだと
感じさせた。

そして、自衛隊の幕僚長による記者会見。制服ではなかった。迷彩
の戦闘服での会見は、本当に日本が非常事態なのだと感じさせた。

東北に展開する多賀城駐屯地では、地震発生直後から災害派遣への
準備がなされ、車両には「災害派遣」の横断幕が掲げられ、担当地域
へ出発する寸前だった。

そこへ津波が襲いかかった。車両は水没し、集散の為に駐屯地を
目指していた隊員の何人かは津波に飲み込まれた。

同じく東北に位置する松島基地では、戦闘機が、輸送機が、津波
押し流される。被災者を救助し、物資を運ぶはずの航空機が使い
ものにならなくなる。

隊員たちの多くは、被災地に居を構えている者が多くいる。自衛隊
とは言え、彼らも被災者だ。しかし、家族の安否確認さえ出来ぬまま
彼らは与えられた任務につく。

父である隊員は駐屯地近くの造船所で高所クレーンを操作する息子
から電話を受ける。津波に襲われクレーンの運転席から動けない。
「お父さん、助けて」。しかし、彼にはどうすることも出来ない。

夫である隊員は妻の安否を気にしながらも「きっと逃げていてくれて
いる」と信じて、被災地での行方不明者の捜索に追われる。

本書は自らも被災した多賀城駐屯地と松島基地自衛隊員を
中心に据えて、東日本大震災での自衛隊の活動を追っている。

著者は自衛隊員目線での作品を書いて来た人なので、客観性
はまったくない。大江健三郎と思われる作家の過去の発言を引き
合いに出してまで、自衛隊礼賛をするのかどうかと思う。

ただ、あの未曾有の災害のなかで自衛隊、消防、警察、海上保安庁
が果たした役割はかなり大きい。

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって
国民の負託にこたえる」

批判以外で自衛隊がこれほど注目を浴びたことがあっただろうか。
東日本大震災後、本書以外にも自衛隊の活動を取り上げた本や
ムックが多く出版された。私も数冊、所持している。

本書の中である自衛隊員が「自衛隊の活動が注目されるような
ことがあってはいけない。自分たちは影の存在でいい」と言って
いた。

そうなんだよな。自衛隊が注目を浴びるのは、日本に大変なことが
起っているってことなんだから。

尚、本書には一切の地図が掲載されていない。位置関係が上手く
つかめなかったのが残念。