ヒトですか?モルモットですか?

我が家の白クマの故郷から、知り合いの息子さんが来日し我が家に
滞在していた。その為、ネットへの接続時間が減少し、日記の更新が
出来なかった。

さて、再開である。

プルトニウム・ファイル いま明かされる放射能人体実験の全貌』
(アイリーン・ウェルサム 翔泳社)読了。

「広島・長崎への原爆投下で多くの被害が出たのは、日本人があらかじめ
準備をしていなかったのが悪い」

マンハッタン計画に関わった、ある研究者は言ったそうだ。準備ってさぁ、
「原爆落としますよ。放射能の雨が降りますよ。危険ですよ」って教えて
くれてないよね。どうやって準備しろと?

日本が核爆弾の悲惨な実験場となったマンハッタン計画だが、この計画に
付随してアメリカ国内では放射性物質の人体許容量を調べると称して、
自国民を実験台とした、人体への放射性物質注入実験が行われていた。

それだけではない。第二次世界大戦後の冷戦期、核開発競争の狂乱の
時代、恐るべき人体実験は手法を変えて何度も繰り返された。

数え切れぬほど行われた原水爆実験で、多くの兵士が危険性も告知
されずに放射能を浴びたのは『アトミック・ソルジャー』をはじめとした
作品で描かれている。100歩…いや、100万歩譲って、兵士は致し方
ないとしよう。だが、以下はどうだ。

ヴァンダーヴィルド大学では放射性の鉄を含んだ飲み物を妊婦に摂取
させ、マサチューセッツ工科大学は施設の子供に放射性物質を投与、
オレゴン州ワシントン州の刑務所では囚人の睾丸に放射線を照射し、
シンシナチ大学ではがん患者の全身に放射線を当てた。

被験者には何も伝えられていない。治療の為と言われながら、実は彼ら・
彼女らはモルモットにされただけなのだ。そうして、死後は遺体を掘り返さ
れ、遺族の了承もなく臓器や骨が研究機関に保存される。

アメリカ国内でも長年隠され続けてきた人体実験だったが、1993年の
クリントン政権の際にエネルギー省長官となった女性閣僚の会見で
ことは公になり、調査委員会が設置される。結局、莫大な賠償金が
発生することを懸念して尻すぼみに終わるのだが。

本書はエネルギー省の発表前から放射能人体実験をコツコツと追って
来たアメリカの地方紙の女性記者による秀逸なレポートである。

わずかに公開された文書を手がかりに、プルトニウム注射を受けた
被験者が誰なのかを解き明かし、おぞましい実験の内実を抉り出して
いる。

翻訳が少々硬いので読みにくい部分はあるが、国家という大枠で括って
しまえば、自国民さえ簡単に犠牲に出来てしまうことの恐ろしさが伝わって
来る。

ナチスの医師たちや日本の731部隊の行為を非難したアメリカは、
ニュルンベルグ憲章さえ無視して国の金で多くの被曝者を生み出した。
そして、ご多分に漏れず、国のしたことの責任はうやむやにされたのだ。

「われわれはヒトですか?モルモットですか?」。原水爆実験に駆り出さ
れた兵士の言葉がすべてを物語っている。