美談ではない現実がある

全柔連は本当に問題を真剣に受け止めているのかな。役員の
辞任なしですって。

女性役員として山口香さんでも登用するかと思ったら、彼女は
東京都の教育委員になってしまった。

変われるのかなぁ、全柔連。変わって欲しいけれどね。

津波の墓標』(石井光太 徳間書店)読了。

あの大震災後の津波被害を受けた釜石市で、亡くなった人を
弔うことに奔走した人々を描いた『遺体』は圧倒的なルポルタージュ
だった。

その『遺体』とは違い、被災地を丹念に取材した著者が体験し、
目撃し、耳にした、大手メディアが伝えなかった現実を綴ったの
が本書だ。

この著者で、このテーマである。さすがに重かった。綺麗事や
美談だけはない、やりきれない辛い現実の集大成だ。

高校を卒業したばかりの息子を失った父は、その死をなかなか
受け入れられない。だが、津波に襲われた息子の部屋を整理
している時に出て来たポルノ雑誌を目にして、やっと息子を
失ったことを受け入れようとする。

行方不明の家族がいる人々は、幽霊が出たとの噂にこぞって
その地へ向かう。未だ発見されない家族。幽霊でもいいから
会いたい。

ボランティアの女性に、パワハラ・セクハラものどきの行為を
働く被災者もいた。

不仲だった母が津波で亡くなったことで、夜ごと悪夢にうなされ、
精神的なダメージを受けた女性がいた。

ほんの僅かの違いで津波被害にあった地域と、無事だった地域
に分断された場所では、被害者感情がやっかみに変わる。

大震災、そして大津波。極限の状態は人間のエゴや人間同士
の軋轢を浮き彫りにもしたのか。

本書は遺体の身元確認にも利用されたDNA型鑑定の話が
出ており、これがいかに難しいものなのかがよく理解できた。

そして思い出したことがある。福島第一原発事故の後、埼玉県
に避難して来た少女がテレビのインタビューに答えて「東京の
人たちに私たちの苦しさが分かるか」のように言っていた。

1日中、ほぼ同じテレビ局にチャンネルを合わせていたのだが、
このインタビューが流されたのはわずか1回だった。こういう
本音は自主規制されちゃうんだな…と思った。

著者はメディアに身をおく人間として、同じ報道関係者の
話も綴っている。遺体の撮影をしていて、遺族に罵倒され、
カメラを投げられたカメラマンの話はやりきれない。彼だって、
撮りたくて撮っていたわけではないだろうにね。

人間の嫌な面が多く綴られているが、著者はその善悪の判断は
していない。「きっと、こういうことがあったのだろうな」と相手を
慮っている。辛い現実を描きながらも、著者の温かさに救われる。