下ろせなかった十字架

エジプトのルクソールで、観光客が乗った気球が炎上・墜落。
日本人4人を含む18人が犠牲となった。なんと痛ましい事故か。

目撃者の話では上空でかごの半分が炎に包まれていたとか。
空の上じゃ逃げようもない。それでもふたりが地上へ飛び降りた
そうだ。

安全性に問題があったのではないかとの話が早速出て来た。
過去に2回、炎上事故を起こしている会社だそうだ。今後の
原因究明が待たれる。亡くなられた方々のご冥福を祈る。

『キャパの十字架』(沢木耕太郎 文藝春秋)読了。

「崩れ落ちる兵士」と呼ばれる有名な写真がある。撮影者は戦場カメラマンと
して世界に名を馳せたロバート・キャパ

1963年9月、スペイン内戦時のコルドバで東部に敵の弾丸を受けた
兵士を撮影されたものだと言われる。

しかし、この写真については数々の疑惑が浮上することになった。
写真に写っていは本当に兵士の死の瞬なのか。やらせではないのか。
そもそも、この写真が撮影されたのはコルドバなのか。

著者の沢木氏は、「崩れ落ちる兵士」への様々なアプローチを試み、
推測に肉付けを行っていく。本書はその過程を綿密に綴っている。

たった1枚の写真の真相究明だが、沢木氏が積み重ねていく推測と、
その推測の瑕疵を自ら明らかにする構成はまるでミステリーを読んで
いるようぐいぐいと引き込まれる。

そうして気付いた時には、沢木氏の推測に「うん、そうだよ。それしか
ないよ」と深く頷いていた。

キャパをキャパたらしめた1枚の写真。それは多くの謎を秘めて、
人々の興味を掻き立てた。本書に書かれていることも沢木氏の
推測に過ぎない。

だって、「崩れ落ちる兵士」は元になったネガが発見されていない
のだから。そう、2007年に新たに発見された「メキシカン・スーツ
ケース」にも、このネガは含まれていなかった。

ロバート・キャパ。偉大なる写真家。しかし、その名前は元々、無名の
ユダヤハンガリー人の青年、エンドレ・フリードマンが写真家として
世に出る為に仲間と作り出した架空の有名写真家だった。

フリードマンが「キャパ」になる初期のパートナーであり、27歳に満たない
若さで戦場で散った初の女性カメラマンであったゲルダ・タローの存在が
本書では大きく関わって来る。

あぁ、もう。凄いよ、沢木さん。久し振りに徹夜してでも読破したいと
思う作品に出会えたよ。出来ることなら、仕事を休んででも一気読み
したかった。

「沢木氏の本の内容を認めている訳ではない」としながらも、掲載する
写真を提供してくれたマグナム・フォトの太っ腹。そして、この一文を
「喜んで掲載する」とした沢木氏の潔さ。感服である。

「崩れ落ちる兵士」の写真を、改めてまじまじと見る。キャパを有名に
したと同時に、この写真がキャパの代名詞のようになったことで、
彼は十字架を背負ったのか。

キャパとゲルダ。ふたりがスペインの村から逃げる人々に逆行して
いく写真が収められている。切ない…。