狂気の時代を生き抜いて

大相撲中継を見ていたら、枡席に見覚えのある顔を発見した。
元首相の森嘉朗ではないか。

以前、モスクワでアイスホッケーの観戦をしていたらプーチン閣下が
ご臨席。その隣には、この森がいた。

遠く離れた席から「森〜、その席、私に譲れ〜〜」と叫んでいたことを
思い出した。

『最初に父が殺された 飢餓と虐殺の恐怖を越えて』(ルオン・ウン
 無名舎)読了。

ロン・ノル将軍政権下のカンボジアの首都プノンペン憲兵隊勤務の
父と中国系の母の間に生まれた少女は、3人の兄とふたりの姉、
幼い妹に囲まれて裕福な暮らしを送っていた。

それはある日突然訪れた。都市生活者の強制移住だ。カンボジア
ポル・ポトが支配する恐怖の時代を迎えようとしていた。

軍人であったことを隠し、父は家族を守る為に力を尽くす。しかし、
それも長くは続かない。何の前触れもなくクメール・ルージュの兵士
に呼び出された父は、2度と帰って来ることはなかった。

本書は恐怖の時代を生き抜いた女性の回想録だ。政治的な解説は
一切ない。少女だった著者が体験し、目にし、耳にしたことが綴られ
ている。

慢性的な飢えに苦しみ、死の恐怖に脅え、ポル・ポトクメール・ルージュ
の兵士へ向けられる煮えたぎるほどの憎悪。10歳にも満たない少女が、
何故、こんな感情を持たなければならなかったのだろう。

ポル・ポトカンボジアを支配したのは僅か4年。その4年間に200万
とも300万とも言われる人々が飢餓や虐殺、病気等で亡くなっている。

悲劇という言葉だけでは表現し切れない、狂気の時代の体験は
読むのが辛かった。しかし、これが現実に起こったことなのだ。

著者だけの特別な体験ではない。この時代、多くの家族が同じ
ような恐怖の時代を迎えていた。著者はばらばらになった兄弟
と運よく再会出来たが、そうではない家族もあったのだろうな。