あなたたちが伝えたことは忘れない

帰りが遅かったので、読書記録だけ〜。

山本美香という生き方』(山本美香/日本テレビ:編 日テレbooks)読了。

そのニュースがもたらされた時、既視感に襲われた。シリアで日本人
女性ジャーナリストが死亡か。

イラク橋田信介氏が亡くなった時と同じような感覚。内戦が激化
しているシリアで、しかも女性だ。真っ先に頭に浮かんだ名前は
山本美香」。

違っていて欲しい。だが、現実はすぐに判明した。やはり彼女だった。

砲撃されたホテル。呻きとも叫びとも聞こえる声を上げ、体の奥底から
湧き出る怒りに突き動かされるように部屋を歩き回る。彼女が亡くなって
からのテレビ・ニュースで何度も流れた映像だ。

イラク戦争時のバグダッド、報道関係者が滞在するパレスチナ・ホテル。
アメリカ軍の戦車はそこへ砲弾を撃ち込んだ。

絶版となり現在は入手困難な彼女の著書『中継されなかったバグダッド
が本書には再録されている。生々しい砲撃現場の様子が、記されている。

「ベイビー」。空のゆりかごを手に、知っている英語で彼女に向かって
訴えかけるイラクの老人。似たような情景は橋田氏も『イラクの中心で、
バカと叫ぶ』に綴っていた。

外部の人間との接触には厳しいイスラムの女性たちのなかへさえ入り、
戦時下の市井の人々に目を向けて来た人だった。彼女のレポートを
観たくて、何度チャンネルを合わせたことか。

「覚悟はしている。でも、死にに来たんじゃない」

美香さんのパートナー・佐藤和孝氏の言葉が、胸に痛い。

美香さん以前にもシリアでは多くのジャーナリストが命を落としている。
「隻眼の女性ジャーナリスト」として知られたメリー・コルビンもそうだ。

自身が取材現場に立つことは勿論、若い世代にバトンを渡す為に
講演や講義なども行っていた。その途上で亡くなってしまうとは。

日本の女性ジャーナリストのなかでも稀有な存在だったと思う。
いつかあなたに会いに、ロンドンのジャーナリスト教会へ行こうと
思う。そこには、同じように危険な地域で命を落とした人たちの
多くが祀られているから。

本書は『中継されなかったバグダッド』を読むだけも大きな収穫だ。
そして、ひとりの人間が何を伝えようとしたかを知り、心に留めて
おく為にも。

ヴェトナム戦争時に多くのジャーナリストがそこで起こっていることを
伝えたことで反戦運動が盛り上がったように、ジャーナリストが危険を
覚悟で現地の模様を伝えることで、戦争を止めることが出来るかも
しれないと思うのは、夢じゃないと思いたい。