ウォール・ストリート・ジャーナルよ、安らかに

またもや銃乱射事件だ。今度は小学校で、20人の子供たちが犠牲に
なった。緊急声明を発表するアメリカ・オバマ大統領も時折、言葉に
つまり、涙を見せていた。

大学で、高校で。これまでにもアメリカでは銃乱射事件が起きていた。
それでも銃社会であるアメリカは、規制への動きは非常に鈍い。

嫌なことだけれど、今後もまた似たような事件は起こるのだろうなぁ。
はぁ…。

ウォール・ストリート・ジャーナル陥落の内幕 なぜ世界屈指の高級誌は
メディア王マードックに身売りしたのか』(サラ・エリソン プレジデント社)
読了。

父の残したメディア・グループを受け継ぎ、オーストラリア国内で多くの
新聞を買収して会社を急成長させたルパート・マードック

彼の買収劇はオーストラリア国内に留まらなかった。イギリスでは
ザ・サン」をはじめ、名門紙「タイムズ」を。アメリカでは映画会社
20世紀フォックスを買収する。

そして、次に目を付けたのが世界的高級紙「ウォール・ストリート
ジャーナル」だった。

105年に渡って支配株主であるバンクロフト家が君臨して来た高級紙
だったか、株価は年々下落を続け遂に30ドル代に。

経営にはノー・タッチのバンクロフト一族も、自分たちの資産が目減り
して行くことには危機感を持っていた。

そこへ持ち上がったのがマードックによる買収提案だ。「1株60ドルで
買いましょう」。世代が下って団結力もなくなったバンクロフト一族は
揺れに揺れる。

まるで小説を読んでいるような面白さだ。バンクロフト一族、マードック
両方の関係者に取材し丹念に書かれている。

ただ、アメリカのメディアについて全く知識がないと辛いかもしれない。
登場人物も多岐に渡るので、途中で誰が誰だか思い出せないことも
あった。それはひとえに私の資質の問題なのだが…。

2007年、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は多額の金と引き替えに、
マードックの手に渡った。「編集権には口出ししない」との約束も、結局は
反故にされ、世界有数のクオリティ・ペーパーは大衆紙への道を
突っ走ることになった。

アメリカだけではない。新聞業界の衰退は世界規模だ。日本では海外
のような高級紙はないけれど、毎日配達される全国紙が、ある日突然、
一面記事が全て東京スポーツのようになっていたら…なんて考えて
しまった。

経済紙であった「ウォール・ストリート・ジャーナル」を、分析記事や
調査報道で高級紙へと脱皮させたバーナード・キルゴアの理念は
既に消え失せてしまった。

ピュリツァー賞常連だった「ウォール・ストリート・ジャーナル」、それも
昔日の思い出だ。優秀な記者・編集者の多くもジャーナルを去った。

確かに資本がなければ新聞も維持は出来ない。だからと言って、
どれもこれもが同じような新聞では面白くないと思うんだけどな。

「もっとも惜しまれるのは、ウォール・ストリート・ジャーナルらしい
批判記事がなくなったことだ──ジャーナルにしか伝えられない、
企業の不正行為の舞台裏を暴くような記事である。そうした記事を
日常的に掲載する新聞はジャーナルをおいてほかになく、ジャーナル
がそれをやめてしまったいま、伝統的な地域言語のように完全に
滅びてしまうことになるだろう」

マードックによる買収後に「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された
ウォール・ストリート・ジャーナルよ、安らかに眠れ」と題された
記事の一節だ。

記事の質よりもセンセーショナリズムを選択、マードック色に染め
られた「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、その新聞名が同じ
だけで、中身はまるっきり違うものになり下がった。