アメリカ版放送禁止歌

自称・客員教授ってなんでしょうか。日本人研究者のノーベル賞受賞に
あやかろうとしたのか、「移植手術しました。しかも6例も」なんて輩が
出て来た。

インタビューしながら「不自然な点がある」と言って放送しなかったNHK
は賢明である。おかしいもの。臨床試験も済んでないし、最初に移植が
行われるとしたら角膜だと言われているのにいきなり肝臓でっせ。

しかも観光ビザで入国している人間に手術させちゃアメリカの医療倫理
も問題になるだろう。記者会見を見たけど支離滅裂だったね。

「研究者を辞める」と言ったそうだが、この人、一体何がしたかったのだろう。

ビリー・ホリデイと《奇妙な果実》 ”20世紀最高の歌姫”の物語』
(デーヴィッド・マーゴリック 大月書店)読了。

大分前だが森達也が製作した「放送禁止歌」という秀逸なノンフィクション
映像があった。同名で書籍ににもなっている。

放送してはいけないと言われる歌は存在するが、そのほとんどはメディア
の自主規制である。これは日本だけに存在するものではない。

暗い日曜日」という歌がある。亡くなった恋人を思い、最後には自・殺を
決意するという内容。自・殺を誘発するとの理由で放送禁止にされたと
言われるが、都市伝説の範疇に過ぎない。

しかし、アメリカには実際に放送が自粛された歌があった。ユダヤ
アメリカ人が詩を書いた「奇妙な果実」だ。

日本でも何人かの歌い手が歌っているが、私が聴いたのは浅川マキ
の歌だった。正直、初めて聴いた時は意味が分からなかった。でも、
どうにも落ち着かない気分になった。

南部の木々は 奇妙な果実をつける
血が葉をぬらし 根もとにしたたる
黒いからだが 南部のそよ風にゆれる
奇妙な果実は ポプラの木からぶらさがっている

すてきな南部の のどかな風景
飛びでた眼球 ゆがんだ口
マグノリアの花の香りは甘く、みずみずしい
するとふいに鼻をつく 焼けた肉の臭い!

ここにあるのは カラスがついばむ果実
雨にうたれ 風にさらされ
陽差しに腐って 木から落ちる
ここにあるのは 奇妙で苦い作物

歌ったのは黒人の歌姫、レディ・デイことビリー・ホリデイ。後に薬物と
アルコールでボロボロになってしまうのだが、彼女は南部にまだ差別
の残る1930年代後半にニューヨークのクラブでこの歌を歌った。

本書はビリーがどのようにこの歌と出会い、自分のものとしていった
のか。また、この歌を聴いた人々がどんな思いを抱いたのかを追って
いる。

当時、大手レコード会社は録音を渋り、歌える場所も限られていた。
ラジオでの放送も自主規制がかかった。それでも、ビリーはこの歌
を歌い続けた。

漫画しか読めなかったと言われる彼女は、幸薄く亡くなった自身の
父親の姿をこの歌に重ねていたのか。

白人にリンチされる黒人。そして殺・されたその体は木から吊るされる。
「奇妙な果実」と呼ばれた黒人の遺体。それを歌詞に盛り込んだ歌
は、やはり人の気持ちを落ち着かなくさせるのではないだろうか。

ヨーロッパではアメリカほどには規制はなかったようだが、フランス
では反米に通じるとされたらしい。

晩年、友人宅でその息子の為にビリーは「奇妙な果実」を歌った。
「のどかな風景ってなんのこと?」。少年の言葉にビリーは答える。

「これはねぇ坊や、白人たちが黒人を殺・しているときのことなんだよ。
かれらは坊やみたいな小さな黒人の子どもをつかまえ、その子の
キン・タマをむしり、それを、くそっ、いまいましいったらありゃしない、
そこ子の喉に突っ込むんだよ。これはそういう意味なんだよ」

「これがね、やつらがやっていることなんだ。これが、くそいまいましい
のどかな風景ってやつなんだ」

今でもアメリカではこの歌には自主規制がかかっているのだろうか。