新時代が生み出したアイドル(偶像)

台風が来るぜ〜。日本列島縦断してやるんだぜ〜。勢力が衰えないん
だぜ〜。ワイルドだろ〜。

…そんなワイルド、いらないんだが。汗。

そういや、番組収録中の怪我で入院したスギちゃん、どうしているのだろう。
某携帯電話会社のCMでは見掛けるけれど。

『さもなくば喪服を 新しきスペインとその英雄の物語』(ドミニク・ラビエール/
ラリー・コリンズ 早川書房)読了。

1936年。それは凄惨なスペイン内戦のはじまった年だった。そんな動乱の
年にスペインの片田舎でひとりの男の子が誕生した。

マヌエル・ベニテス。のちにエル・コドベス(コルドバ人)と呼ばれるようになる
子供は、当時の多くのスペイン人の例に洩れず土地を持たない貧農の家の、
5人兄弟の末っ子だった。

働き者ではあったが経済的に恵まれなかった父は共和制支持派に加担した
ことで家を追われ、最後は獄中で病死する。

父が姿をくらました後、5人の子供たちの為に働きづめだった母も過労と衰弱
で世を去る。時にマヌエル、5歳。

父母亡きあとは長姉のアンヘリータが母代りになり彼を育てるが、内戦と
それに続く大干ばつで常に飢えが付きまとう生活。

学校へなんてもちろん行けない。みな、食べることに必死だ。そんな生活の
なかである日、映画館で観た闘牛士の映画にマヌエルは心奪われる。

闘牛士になるんだ」。その一年だけで彼はスペイン中を放浪する。

アメリカの貧しい少年がボクサーになって大金を稼ぐのを夢見たように、
スペインの少年たちは闘牛士になって一獲千金を得る夢を見る。

大農園主の牧場に勝手に入り込み、月明かりの下で牛に挑み、地方の
祭りで腕試しをし、闘牛場に乱入して自分の腕前をアピールしようとする。

多くの少年たちが一流の闘牛士を目指して、少ないチャンスをものにしよう
とする。

そんな放浪の生活から抜け出せるのは、わずか一握りの人間だけだ。
マヌエルには時の女神の微笑みと、これまでの古典的な闘牛の動作を
覆す天性の才能があった。

そして1960年代。エル・コルドベスと呼ばれる一流の闘牛士として
マヌエルは全スペインを熱狂させる存在になる。

本書は彼の1964年にマヌエルが正式な闘牛士昇進式となる闘牛場の
模様と、彼の生い立ちの章が交互に記されている。

どの国にも新しい時代には、新しいヒーローが誕生する。イギリスでは
ビートルズが、アメリカではケネディ大統領が新時代のアイドル(偶像)
だった。

内戦が終わりフランコ政権下で新時代を迎えたスペインに現れたのは、
国技でもある闘牛の世界にヒーローが誕生した。

食べるものに事欠き、常に飢えにつきまとわれ、故郷ではオレンジや
鶏を盗んでいた少年は、闘牛界に旋風を巻き起こし、その頂点に立つ
こととなった。

「泣かないでおくれ、アンヘリータ、今夜は家を買ってあげるよ、さもなけ
れば喪服をね」

本書のタイトルはマヌエル自身のこの言葉から取られている。タイトル
も秀逸だが、この共著者のふたり、どこかで見た名前だと思ったら
パリは燃えているか』の共著者だった。

上下2段組みなのだが、手法の妙もあって読み手の興味を掻き立てる。
見事なノンフィクションである。しかし、残念ながら絶版。復刊は難しい
かな。いわゆる差別用語とされる言葉が頻発しているから。