初物

旦那のリクエストもないので夕飯のおかずに悩みながら、地元駅から
自宅への道を急ぐ。

パスタは常備しているし、ソースを作る材料もある。でも、困った時の
パスタ頼みは何回も使った手だ。我ながら芸がない。

そう思うって魚屋の店頭を覗く。丸々、艶々。おいしそうなふっくらサンマ
が寝そべっているのではないか。

あぁ、今年はまだ食べてなかったな。よしっ!サンマに決めた〜。

帰宅してサンマを焼いていて気が付いた。大根がない。ま、いいか。
すだちがあるから。

大根おろしは?」

旦那から聞かれた。ありませんっ!

ボルシチにはビーツ、サンマには大根おろしですよ」

ありがとう、日露合作の突っ込み。しかし、ないものはないのだ。今日は
我慢して食してくれ。

今度は忘れないように買っておくからさ。

初物のサンマは大根おろしがなくても充分においしゅうございました。

『さもなくば喪服を 新しきスペインとその英雄の物語』(ドミニク・ラビエール/
ラリー・コリンズ 早川書房)を読み始める。

スペインの象徴、闘牛士。貧しい少年が一獲千金の夢を見て、闘牛士
目指す。20世の偉大なる闘牛士のひとり、エル・コルドベスの半生を
描くのフィクションである。