チェルノブイリのハート

視覚障害者の方が駅のホームから転落して亡くなった。またか…と
思う。鉄道各社は順次、ホームドアの設置を進めているが全ての
駅に導入されるまでは時間がかかりそうだ。

私が通勤に利用する路線ではホームドアのある駅が皆無だ。場所に
よっては非常に狭く、健常者でも人とすれ違う時に注意を要する。

こういう事故が少しでも減るよう、早く全駅設置って出来ないものかね。
費用の問題もあるだろうけれどさ。

でも、設置したら設置したで、ホームドアにもたれて通路をふさぐ
たわけが出るんだろうなぁ。

『新版 チェルノブイリ診療記 福島原発事故への黙示』(菅谷昭 新潮
文庫)読了。

旧ソ連時代のチェルノブイリ原子力発電所で起こった事故は、子供たち
に取り返しのつかないものを残した。

ソ連崩壊後に独立したベラルーシミンスク。そこにある甲状腺ガン
センターへ医療支援の為に渡った著者の見聞と、子供たちへの思い
がいっぱいに詰まっている。

国のシステムが異なることもあるが、経済状況が悪化していたミンスク
での医療の実態には唖然とした。

メスは切れない。手術中に下がってしまう手術台。手術数で評価される為に
ベルトコンベア式に行われる多くの手術。消耗品の不足。看護師の都合に
よって急遽中止される手術。そして、生活するには十分とは言えない給料
の為、医師でさえもアルバイトを余儀なくされる現実。

何よりも哀しいのは自分の運命を受け入れているのか、淡々と手術を受ける
子供たちの姿だ。7歳の少年は手術台に乗ってから泣きじゃくり、「1回だけ
だよ」と言って涙をこらえ点滴を受ける。しかし、彼は術後、目覚めることは
なかった。

チェルノブイリのハート。原発事故の影響で甲状腺に異常が発見された
子供たちの首筋に残された手術痕。それは旧式の手術法。甲状腺手術
スペシャリストである著者の手法では傷跡はほとんど目立たぬらしい。

医療行為については勿論だが、本書では支援の在り方や現地の人々との
交流も綴られている。

昨年の福島原発事故を受けての文庫化なのだが、チェルノブイリでの
事故が起こった時、「日本ではありえない事故」という見方が大半だった。
私たちはそんな考え方を反省しなくてはいけない。