愚直な人生の交差点

ひゃっほ〜。「絶対女王」はやっぱり強かった。「オリンピック開会式で
旗手を務めた女子選手は金メダルを取れない」なんてジンクスも、
「そんなの関係ねぇ〜」とばかりに勝利へ邁進。

女子レスリング、吉田選手も伊調選手に続いてオリンピック3連覇を
達成だ。おめでとう〜。

『テロルの決算』(沢木耕太郎 文春文庫)読了。

1960年10月12日。東京の日比谷公会堂では自民党社会党民社党
3党首による立会演説会が行われていた。

民社党委員長の西尾末広の演説が終わり、社会党委員長の浅沼稲次郎
が壇上に立つ。

会場の右翼からは凄まじい怒号とヤジが飛ぶ。警戒する警備陣の隙を
つくように、ひとりの少年が壇上に駆け上がった。その手には鈍く光る
刃物が握られていた。

演説中の浅沼委員長に体当たりするように、手にした刃物で刺殺した犯人は
山口二矢。当時17歳。

60年代安保の国会突入の際に亡くなった樺美智子が学生運動の象徴に
祭り上げられたように、二矢はこの暗殺事件を起こしたことで右翼のなか
で英雄として祀られることになる。

本書はテロの対象とされた浅沼稲次郎と、テロリストとなった山口二矢
ふたりの生い立ちから事件に至るまでを綿密に描いている。

「万年書記長」と呼ばれた政治家と右翼少年。立場も思想もまったく異なる
ふたりだが、根底には愚直なまでの信念があったのではないか。

何故、殺されなければならなかったのか。何故、殺さなければならなかった
のか。61歳と17歳の人生は、「死」によって交錯した。

テロは憎むべきものである。しかし、本書で描かれている二矢には少年期
特有の青臭さはあるもの、憎しみが湧かない。それは彼が彼なりに、この
国を思った真っすぐさが感じられるからだろう。

そして、一方の浅沼稲次郎には救われなさを感じる。私を滅し、庶民の為、
党の為に尽くした政治家。与党からも、右翼からも故人としては「善人」
と評価された人は、その死によって惜しまれるどころか党内からは
死んでくれてよかったとまで思われる。

弾圧の時代の浅沼の軌跡は壮絶である。加えて2度にわたる発狂を経て、
やっと手にした委員長の座にありながら凶刃に倒れなくてはならなかった
とは。これが「運命」と言うならば、浅沼の運命は哀し過ぎる。

どちらがいいとか悪いとか、著者は一切の判断を下していない。ふたりの
人生を積み重ね、事件の背景を描き出したノンフィクションの名作である。