絶滅種

ロンサム・ジョージ。ガラパゴス諸島で乱獲から逃れ、唯一生存して
いたビンタゾウガメが大往生を遂げた。推定年齢100歳以上だ。

ビンタゾウガメはガラパゴスゾウガメの亜種である。19世紀から20世紀
初頭にかけて船乗りたちの食料にされ、絶滅したと思われていた。

そこへロンサム・ジョージが現れた。たった1匹の生き残り。「孤独な
ジョージ」と名付けられ、野生動物保護の象徴となった。

たった1匹になって、どれだけの年月を過ごして来たのだろう。物言わぬ
動物とはいえ、仲間がいなくて寂しくはなかったのだろうか。

おやすみなさい、ロンサム・ジョージ。いい夢を。

『判淳三郎 道化の涙』(田山力也 現代教養文庫)読了。

「喜劇役者」という言葉も耳にしなくなって久しい。エノケン、ロッパ等、
喜劇役者が大活躍した時代があった。

本書はそんな喜劇役者のひとり、判淳三郎を取り上げた評伝である。

貧乏画家の父が亡き後、20歳以上歳の離れた義兄とそりが合わず、
母と幼い妹を故郷・山形に残して東京に出る。

丁稚j奉公するも長続きせず、故郷へ戻ったり再度東京へ出たりを
繰り返し、新劇へ参加したり、ドサ回りの一座に加わったり、自ら
喜劇劇団を旗揚げしたり。

戦前から戦後にかけての役者っていうのは、多かれ少なかれこんな
ものなのだろうね。

ヒロポン中毒になり、女たらしで、結婚・離婚の繰り返し。挙句の果てには
歳若い後妻がギャンブルで借金を作ったばかりか、内弟子と懇ろになる。
この最後の離婚は判の死後まで尾を引くことになる。

15年のブランクはあったものの、彼の身を思い、死後まで寄り添ったのは
一時は共に生活をした清川虹子だった。

「アジャパー」で一斉を風靡し、映画「二等兵」シリーズで磐石の地位を
築き、晩年は味のある脇役を演じたが、彼の一生には常に「寂しさ」が
付き纏っていたのではないだろうか。

自ら企画したアメリカ巡業の途中で、苦労をかけっぱなしだった母の
死の報せを受け、身も世もなく嘆く。女性への執着は、彼を思い、
好きなように生きさせた母への、母性へのこだわりだったのか。

本書は所々話が飛ぶので少々読み難いが、吉本興業への引き抜き
工作や、後輩いじめなども隠さずに綴られている。

喜劇役者。これもまた絶滅種なのか。