根拠なき自信

哲学者で、詩人で、評論家。吉本隆明が亡くなった。享年87歳。
「戦後思想の巨人」は、昭和の一時期、若者たちのカリスマでも
あった。ご冥福を祈る。合掌。

閑話休題

昨夜は鼻の奥がムズムズし、時折くしゃみが出た。微妙に喉に
痛みもあった。「これはきっと風邪だ。花粉症では絶対ない」と
いう根拠のない自信の下、葛根湯を服用して床に就いた。

念の為、本日はマスク着用で出勤だ。う〜ん、マスクを着けるなんて
小学生の時以来じゃないのか。

息苦しいわ、暑いわ、鬱陶しいわで何度はずしたくなったことか。
花粉症や風邪の予防で1日中マスク着用の人を尊敬した1日だった。

復讐するは我にあり 改訂新版』(佐木隆三)読了。

「文庫本あきとがき」で著者自身も書いているが、手法としてはカポーティ
の名作『冷血』と一緒か。

実際にあった事件のノンフィクション・ノベルだが、犯人の名前は勿論
変えている。

九州での強盗殺人事件を皮切りに、静岡県で旅館経営者の親子を殺害。
殺害後、旅館に質屋を読んで物品を処分する。

その後、弁護士を装い、千葉県、北海道、栃木県、東京で詐欺を働き、
東京では老齢の弁護士を殺害し、洋服ダンスに死体を隠したアパート
で数日過ごす。なんだ?この神経は。

そして、舞い戻った九州で再度弁護士を装い教誨師に接近するも、
11歳の娘に正体を見破られあっけなく逮捕される。

昭和38年から昭和39年の初めにかけての、78日間の逃亡はこれにて
幕を閉じる。

取り調べの模様から裁判、そして死刑執行までを描いているが、描写は
あくまでも淡々としている。殺人は確かに起きているのだが、その凄惨な
場面は一切なし。まるで新聞記事を読んでいるようだ。

日本縦断で犯行を繰り返した犯人の動機は分からないが、カトリック一家
に生まれ育った犯人が最後には死刑判決を受け入れ、信仰に帰依する。

緒方拳主演の映画では犯人像ばかりに焦点が当てられていたが、原作は
逮捕から刑の執行までの心理の推移が読みどころか。

尚、モデルとなった西口彰事件の犯人は「史上最高の黒い金メダル
チャンピオン」「悪魔の申し子」と呼ばれ、1966年に死刑確定、4年後に
刑場の露と消えた。