名作に浸る
残念ながら絵心がまったくない。そんな私でも時折、編集稼業の関係で
スケッチを描かなくていけないことがある。
久し振りで撮影用のラフ・スケッチを描いた。我ながら酷いこと、この上ない。
幼稚園児にも負けるぞ、これは。
取り敢えず出来上がったものを友人の事務所へFAX送信である。案の定だ。
折り返し友人から送られて来たFAXには、ひと言。
「いたずらFAX厳禁」
え〜〜〜〜ん。本気で描いたんですけど〜。そりゃ人間の顔が丸で、そこ
から線で胴と手足が延びているのでは「いたずら」って言われても仕方ない
けどね。とほほ…。
『蜘蛛女のキス』(マヌエル・ブイグ 集英社文庫)読了。
初めて読んだのは20年以上前か。いきなり映画の筋の語りから始まる本書は、
会話をしているふたりが誰なのか、どんな状況にいるのか、まったく分からない
手探りのまま読み進めていた。
読み進むうちに刑務所内での会話であること、ホモセクシャルのモリーナと
政治犯のヴァレンティンが同じ房にいること、ふたりの背景にあるものが徐々に
明らかになって来る。
そして、いつの間にかモリーナが話す映画の内容に引き込まれ、聞き手である
ヴァレンティンのように映画の続きが気になって来る。
シェヘラザートのようなモリーナの話に、ページをめくる手が止まらない。そして、
書体を変えた独白部分が多少の謎を秘めて、物語は重く哀しい結末へ向かう。
改めて読み終わっても、やはり名作である。モリーナの優しさ、切なさが心に
沁み入る。妖しくて、温かい物語は時代が経ってもいいものだねぇ。
実家の書棚にあるはずなのだけど、昨年、改訂版が発行されたのを機に
再読してみた。あぁ、小説もたまには読まなきゃ。