六尺の、果てしない世界

映画化された影響で、源氏物語関連の書籍が新刊書店の特設
コーナーを飾っている。

年若い友人が熱を上げているようなので水を差してみた。我ながら
なんと底意地の悪いことか。笑。

古典文学とは言え、あの時代のポルノ小説だものなぁ。主人公はマザコン
そして未成年略取誘拐だよ〜。

平安時代フランス書院文庫があったらラインナップに入っていたこと
だろう。爆。

『子規、最後の八年』(関川夏央 講談社)読了。

旧友である漱石や鼠骨、学友であった秋山正之、後継者と期待した虚子、
和歌の在り様で衝突した後弟子を自任した伊藤左千夫、理解者で支援者で
あった陸羯南等々。明治文化人オールスター祭りである。

日清戦争に従軍記者として参加した後、帰国する船上にて結核を発症。
各地で療養し、東京・根岸の家で子規が身を預けたのは僅か六尺の
病床である。

病の床に就きながらも人力車で外出出来た頃もあった。それが、杖にすがって
庭に出るだけになり、隣室への這っての移動となり、遂には自ら寝返りを打つ
ことさえ叶わなくなる。

野球を愛し、旅を愛した子規が、否応なく病床に縛り付けられるようになる。
それでも子規の、文学への意欲は衰えない。衰えないどころか、ますます
「読者」へ向けて書くことへ、俳句や和歌の近代化へと、子規を駆り立てる。

病室には旧友、俳人歌人が多く集う。六尺の病床は確かに広くはない。
しかし、病床に縛り付けられた人がまいた種は、その人の死後も果てしない
広がりを見せた。

「のぼさんは清さんが一番好きであった」

子規の死後、老母が虚子に言う。時には反発を覚えながらも、子規の後継者と
なった虚子は、老母のこの言葉に救われたのだろうか。

子規の評伝では多くが漱石や虚子、碧梧桐等に多くの筆がされがちだ。
本書は子規の発病から死まで、身の回りの世話に明け暮れた妹・律に
も紙数を割いている。なんか、嬉しい。