一夜限り

気温が上がらないのに加えて、午後からは冷たい雨が降る。太陽の
顔を観ない冬の日は、なんだか寂しい。

夏はあれほど恨めしかった太陽なのに、人間って勝手だ。笑。

帰宅して濡れた傘を干そうと思って玄関で広げたのだが、その途端、傘から
何かがたたきに落ちた。

え…動いてるよっ!こ、これはヤモリって奴ではないかっ!一体、いつの間に
傘にくっついて来たのだろう。

突くとちょこっと動く。え〜、どうしよう。家を守ってくれるんだよな、ヤモリって。
無下には出来んぞ。さぁ、困った。

一応、捕獲してガラス瓶には入れたのだが、どうしたものか。ペットとして飼う
人もいるようだが、飼っても死なせてしまったら可哀想だものな。

あ…実家の狭い庭に放してあげればいいのか。実家なら小さいながらも植え
込みもあるし、水場もある。明日の出勤前、放しに行こうっと。今日は狭苦しい
ガラス瓶で我慢しておくれよ〜。

引き続き『神保町「二階世界」巡り及ビ其ノ他』(坂崎重盛 平凡社)を読む。

「芸者さんがいて、芸事の修行があるとなると当然、伝統の和装の老舗もある。
紳士用帽子の高級パナマやソフトを売る店もある。
なにより街に、昔と今がある。迷路のような路地がある。
こういう財産を、デクの坊のような巨大な墓石じみたビルをおっ建てることによって
破壊してはならない。
景観破壊ということもあるが、もっと現実的に、せっかくの観光資源を無に帰すよう
なものだから。
歩いて三味線の音が聴こえてくる街は、今日、そうはない。」

神楽坂について書かれた章の一節である。専門学校の頃、飯田橋から神楽坂を
よくほっつき歩いた。無論、講義をさぼってだが。笑。

あの頃、神楽坂の店に入るには勇気がいった。「大人の女になったら、ひとりでも
入れるようになってやる」。そう思ったのだが、現実は遠いようだ。涙。