違いの分かる男

某インスタント・コーヒーのテレビCMではない(古っ!)。我が派遣先の
お客様である。

月末が近いせいか、今週は忙しかった。今日も話し好きな常連のおっちゃん
の相手をする。

「あれ〜?sashaさん、辞めたんじゃなかったのぉ?」

2〜3日出なかったからといって、辞めさせないでくれ。私はこのおっちゃんに
何度辞めさせられたことだろう。いつものように愛想を振りまいて、次の電話に
出る。

「待たせ過ぎだよ」

うわっ!常連だけど無愛想なおっちゃんである。問い合わせが立て込んで
待たせたことを詫び、必要な案内をする。

「あのさ…」

う?苦情か?少々身構えたのだが、おっちゃんの口からは意外な言葉が
飛び出した。

「朝の人は説明が簡潔でいいな。午後や夕方に電話すると、回りくどくて
たまんないよ」

思わず「そうなんですよぉ〜」と相槌を打つところだった。遅い出勤の
スタッフのうちの数名は、同じオペレーターとして聞いていると「何でそんな
説明の仕方をするのか」と思うような案内をするのだ。

分かってくれていたのか、おっちゃん。無愛想だけれど、本当は違いの分かる
おっちゃんだったんだねぇ。

自分だけのことではないけれど、同じ時間に出勤するスタッフ全員が褒められた
ようで嬉しかったな。今日もいい1日♪

『死にたもう母』(出久根達郎 角川文庫)読了。

葬儀は不要、読経も線香もいらない。そして、「戒名はあんたが考えてくれ」と。
著者の母と義母は、似たようなことを言って世を去って行った。

そんなふたりの母との同居生活、原因不明の病を得た愛犬のこと、歳を取る
ということ。日常のささいな出来事を綴ったエッセイは、温かくてほろ苦い。

なんというエッセイの名手なのだろうか。「心に沁みる」ってのはこの人の
書く文章を言うのだろうな。絶版なのが残念。