一大ファミリア、消失す

「福島」という言葉に過剰反応する人は、やはりどこにでもいるらしい。
某県某市の花火大会で、福島県で作られた花火の打ち上げが中止
になった。

京都・五山の送り火問題を思い出した。哀しいかな、これが日本の
現実である。

ローマ人の物語42 ローマ世界の終焉[中]』(塩野七生 新潮文庫)読了。

あまりにもぐだぐだな帝国末期である。蛮族同士の争いの間だけしか平和を
享受出来ないなんて…。

しかも自分は何もせず、蛮族との戦いに功績のあった人物を些細なことで
視察してしまう皇帝まで現れる。「神に選ばし者」という王権神授の弊害だろう。

「陛下、陛下の想いが何であったのかはわたしにはわかりません。だが、わたし
でもわかるのは、あなたは、左腕で右腕を斬ってしまわれたということです」

皇帝の報告を聞いた元老議員の言葉が如実に示しているが、帝国末期の
皇帝たちは皇宮に引き籠るだけであったので、判断力さえ持っていなかった。

そして族長アッティラに率いられた「蛮族中の蛮族」フン族によるイタリア侵攻
が始まる。この侵略から逃れようと、イタリア本国を後にした人たちが作った
のが後の海洋国家・ヴェネツィア共和国になる。『海の都の物語』を再読したい
衝動に駆られた。笑。

カエサルが征服したガリアはとっくに蛮族に侵攻され、スキピオエミリアヌスが
攻略したカルタゴも蛮族の手に落ちる。ウィンストン・チャーチルが「イギリスの
歴史はカエサルドーヴァー海峡を渡った時から始まったと言ったブリタニア
の防衛線も機能しなくなって久しい。

職業は世襲制としたことから弱体化した軍団は、多くの属州を防衛するどころか、
本国さえ守れず皇帝自らが「属州は守れないから自分たちでどうにかしてね」と
文書を送りつける始末。

敗者さえも取り込み、属州の安全を保証することで蛮族さえもローマ化して
いった帝国は、もはやその片鱗さえも失っている。

「ポリビウス、われわれは今、かつては栄華を誇った帝国の滅亡という、偉大
なる瞬間に立ち合っている。だが、この今、わたしの胸を占めているのは勝者
の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じときを迎えるであろうと
いう哀感なのだ」

破壊され、地上から姿を消そうとしているカルタゴの滅亡の際にスキピオ
エミリアヌスが思いを馳せたように、「世界の首都」ローマを擁した西ローマ
帝国は消滅した。

しかし、それはカルタゴのようにはっきりとした消滅ではなかった。「偉大なる
瞬間」もなく、誰も気付かぬうちに、偉大な帝国は滅びた。消滅と言うよりも、
消失と言った方がいいように。