数字では分からない

仕事を終えて派遣先の建物を出ると、少し先を同じ職場のスタッフが
歩いていた。苦手なタイプのスタッフである。ゆっくりと歩いているので
このままだと隣に並んでしまいそうだ。

あれ?立ち止まったぞ。ますます距離が縮まるじゃないか。ん?もしか
して歩き煙草か。こりゃぁぁぁ、東京都中央区は「歩き煙草禁止地区」
だぞ。

ルールは守らんかいっ!こんな輩がいるから喫煙者は余計に肩身が
狭くなるんだ。派遣先には見晴らしのいい喫煙室があるではないか。
どうしても吸いたいのなら、喫煙室で一服してから出て来んかいっ!

尚、彼を追い抜きざまに「歩き煙草は禁止です」と呟いたのは言う
までもない。プンスカ。

『ルポ 餓死現場で生きる』(石井光太 ちくま新書)読了。

飢餓に瀕している人、ストリート・チルドレン、児童労働者、識字率
児童結婚、子供兵。ユニセフなどが世界の統計を取っているが、
数字だけでは分からない貧困者の現実がある。

大手スポーツ・メーカーが貧困国に有する自社工場で多くの子供たちを
働かせていたことが明らかになった時、先進国ではこれを大問題として
扱った。

その結果、どうなったか。工場からは子供たちの姿は消えたが、収入の
道を絶たれた彼ら・彼女らは家計を助ける為に収入の不安定な路上の
物売りになったり、売・春婦になったりした。

ストリート・チルドレンから売・春婦になった女の子は、売・春宿で初めて
公用語の勉強を始められるようになった。言葉でのコミュニケーション
が欠かせない商売。他言語地域では公用語が必要になる。

路上生活のままでは言葉を覚えることが出来なかった。言葉を覚えれば、
いずれ他の職業に就くことも出来る。そう語る女の子の言葉が痛い。

本書には「これでもか」という程の貧困の連鎖が描かれている。読み進む
のが辛くなるくらいだが、これが現実なのだ。

「みなさんのなかには、そのどうしようもない現実を目にして途方に暮れる
方もいたかもしれません。しかし、あなたは世界の大問題をなにも一人で
解く必要はまったくないのです。どんな天才でも、そんなことをできるわけが
ありません。大問題を解決しようとするのではなく、あなたが向き合えると
思うたった一つの出来事に対峙し、自分に何ができるのかを考えることが
大切なのです。」

貧困をなくすには、人を助けるには、何も出来ないのではないか。そんな
絶望感を抱いた最終章での著者のこの言葉に救われる。多くの貧困地域
を見て来た著者だからこそ、援助することの大変さを実感したことから
出た言葉なのだろう。

生きるとは、生き延びるとはを考えさせてくれる良書。難しい言葉は一切
使われていないので、子供たちにも読んで欲しい1冊だ。