皇帝を夢見た将軍

お土産はハーグ条約加盟。すっからかん首相がG8出席の為、フランスへ
到着した。日本を出る時は笑顔だったな。しばらく野党や党内からの突き上げ
から逃れられるからか。

しっかり各国の首脳に不手際と情報隠ぺいをお詫びして来いよ。人に頭を
下げるのはお嫌いなようだが。

『ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 上』(デイヴィット・ハルバースタム
 文藝春秋)読了。
『ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 下』(デイヴィット・ハルバースタム
 文藝春秋)読了。

トルーマンマッカーサー毛沢東金日成スターリン。上巻で主要な役者が
出揃った。それにしても上巻は読みにくかったな。翻訳のせいもあるのだろうが。

朝鮮戦争は実質、アメリカvs共産中国の戦いだった。しかし、両軍共に機能不全
に陥って行く。

アメリカ側の原因は朝鮮へ足を運ぶことのなかった最高司令官・マッカーサーだ。
本書は「マッカーサー物語」と言っても過言ではない。数々の戦いで大いなる功績
を上げた高齢の将軍も、その威光は仁川上陸作戦までだった。

「クリスマスまでには帰国できる」。兵士たちはそう聞かされて朝鮮半島に赴いた。
だが、そこで待ち受けていたのは中国共産軍の人海戦術と、朝鮮半島の過酷な
寒さだった。

誰もが成功に疑問を持った仁川上陸作戦を成功させたマッカーサーではあったが、
現場指揮権の分割と、中国参戦せずの予想が裏切られ、現場の兵士たちはより激しい
戦闘にさらされ、ワシントンは政治的発言が増えて行く将軍に対して不信感を抱く。

ワシントンの言うことにも、統合参謀本部の言うことにも耳を貸さず、自分を崇拝する
者で周囲を固めた老将軍は、占領下の東京・第一生命ビルに独自の帝国を作り
上げた。

戦時の軍隊を機能不全に陥らせたのはマッカーサーだけではない。共産中国の
毛沢東マッカーサーに引けを取らない。しか、片や一将軍、片や共産中国の
最高指導者。マッカーサーは最高司令官解任という失脚の運命にあったが、
毛沢東は逆に現場の指揮官を自分に歯向かったとして、後に粛清する。

マッカーサーに限らず、中国軍の猛烈な攻撃に晒された際のアメリカ軍には
人種差別に根差したアジア人蔑視もあっただろう。「自分たちはアジアの野蛮人
たちの救世主だ」。これは朝鮮戦争だけに限らない。後のインドシナでの泥沼に
足を突っ込んだ時にも、アメリカにはそんな考えがあったのではないか。

そして、第二次世界大戦後の日本占領の成功がアメリカを、ひいてはマッカーサー
を勘違いさせたのではないだろうか。

中国も、朝鮮半島も、それまで世界の列強(勿論、日本も含む)に支配されて
来た植民地であった。そんな土地で、新たな支配を確立させようとしても反発
を食らうだけだったろう。

その勘違いは、今もアメリカが絡んだ戦争で既視感のように繰り返されている
のではないかと思う。

著者は本書のゲラに最後の手を入れた5日後に交通事故で亡くなっている。
本当に絶筆になってしまった作品だ。翻訳の読みにくさを差し引いても◎
な良書なのだが、当時の韓国大統領の姿がまったく見えて来ないのが気に
なる。いくらボンクラとは言え、もうちょっと触れられてもよかったのではないか。