ニジンスキーに捧ぐ

ニジンスキーの手記 完全版』(ヴァーツラフ・ニジンスキー 新書館
読了。

ディアギレフのバレエ・リュスを追われ、自身が興行主となったバレエ公演に
失敗したニジンスキー。心を病んだ彼は妻と娘と共に、サンモリッツで療養
する。

そこで書かれたのが本書の元になった4冊のノートである。なんとも言い難い
「愛」への渇望が綴られている。

「(前略)私は謝りを自覚した。妻は他の人びとよりも私を愛してくれたが、
私を感じてはくれなかった。私は別れたかったが、それは不実だと感じ、
彼女のもとに留まった。彼女はあまり私を愛してくれなかった。彼女が
感じていたのは金と私の成功だった。彼女が愛したのは私の成功と私の
肉体だった。(後略)」

妻となったロモラは、確かに「成功した世界的ダンサー」と結婚したので
あって、人間としてのヴァーツラフ・ニジンスキーに恋をし愛したのでは
なかった。愛人でもあったディアギレフとの溝が決定的になったロモラ
との結婚によって、ニジンスキーは益々孤独の深淵に堕ちて行ったの
であろう。

それでも、ロシアで革命が起こらず愛する母や妹に会えていたのなら、
生まれ育ったロシアの地で暮らすことが出来たのであれば、彼の心
はもう少し持ちこたえたのではないだろうか。

「私の肉体は病んでいない。病んでいるのは魂だ。」

「私はみんなを愛している」。手記の中で何度も繰り返される言葉である。
愛を求めて得られずに苦悩した魂は、どこに安らぎを見出していたのだろう。

舞台に立ったのは僅か8年。伝説のダンサーに、惜しみない愛を捧ぐ。

という訳で、神の道化となったプリンシバルに、氷上のプリンシバルが
捧げたこの演技を。