あなたの「忘れられない1冊」は何?

『忘れられない一冊』(週刊朝日編集部:編 朝日文庫)読了。

誰にでも思い出の1冊となる本があるのだろう。私にもある。

それは中学校の通学途中にあった、街の小さな本屋さんで出会った。
あの頃、夢中で読んでいたのはミステリーやサスペンスだった。
学校帰り、いつものように文庫の棚を眺めていたら、突然、ある
タイトルが目に飛び込んで来た。

『敗れざる者たち』。現在も版を重ねている沢木耕太郎の作品である。
だが、当時はタイトルの意味さえ分からなかった。それでも手にして
いた漫画雑誌を平台に戻し、タイトルに惹かれた文庫を購入した。

それまで読んでいた小説とは違う、ノンフィクションとの衝撃的な
出会いだった。思い返せば私のノンフィクション志向はこの作品が
きっかけだったのかもしれない。

作家、タレント、評論家、画家、映画監督。各界の著名人もそれぞれ
が「忘れられない一冊」を持っている。そんな本にまつわるエッセイ
を集めたのが本書だ。週刊誌の連載記事だったが、こうして1冊に
まとめると、それぞれの思い出も十人十色で面白い。

伴侶となる人との間を繋いだ本もあれば、亡き父を思い出すよすが
となる本もあり、どうしても読めないが本棚の片隅に鎮座している
本もある。若かりし日の恋人との苦い別れの時期を思い出させる
本の思い出なんて、ほろ苦いね。

ひとりにつき、ほぼ見開き2ページの短いエッセイなので、自分が
興味のある著名人だけを拾い読みするのも可能。

そして、こういう本にまつわるエッセイを読むと登場する作品に
興味がわき、読みたい本リストが増えるという罠にかかるのだ。